生体認証の今――「産業主導」の日本、「国策」の海外企業セキュリティ古今東西(2/2 ページ)

» 2007年12月17日 07時00分 公開
[荒木孝一(エースラッシュ),ITmedia]
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静脈や虹彩はコストとサイズが課題に

 「静脈認証」は、銀行ATMでの採用により一般消費者の認知度が一気に向上した、指紋よりも高い精度を誇る認証方式だ。しかし、ATMコーナーにあるすべての端末が静脈認証対応に切り替わっていないことからも分かるように、ユーザーの必要性の高まりや機器のコストやサイズに課題が残っている。

 静脈認証に関する国際標準化の動向としては「韓国、日本で始まった実用化ゆえに、日本を中心として静脈認証を国際標準化のモダリティ(種類)の1つとして登録が進んでいる」(中嶋氏)という。現在では指の静脈で判定する日立製作所と、手のひらの静脈で判定する富士通による、国内の市場争いがヒートアップしている。

 「虹彩認証」は、以前と比べて低価格にはなってきたが、やはりコストとサイズに関する課題が大きい認証技術だ。これは、読み取りに高品質なレンズを使うことと、近づいて認証を行うために上下の高さが必要になることが原因といわれている。

 しかし最近では、離れた距離からでも認証が行える技術や、上下のまぶたに隠れている部分を省いて左右両側で判定するという、従来は難しかった目の細い人などに有効な技術も登場している。虹彩認証は高い個人識別能力を持っているだけに、更なる低価格化とコンパクト化に期待したいところだ。

 「声紋認証」は、利用者の体調や環境ノイズの影響を受けやすいという難点はあるものの、携帯電話などを使って遠隔地からリアルタイムな本人認証ができるというメリットがある。また、既存資産の流用による低コスト導入に加え、最近では利用しやすいASP(Application Service Provider)形態のサービスも登場しているので、ほかの認証方式と容易に組み合わせられるのも魅力といえるだろう。

求められる市場全体のロードマップ

 バイオメトリクス関連市場全体の動向として、中嶋氏は「昨今、バイオメトリクスの普及が進んでいるが、現段階ではバイオメトリクス認証技術についてのロードマップが明確にできていないため、経済産業省による作成に向けた活動が始まっている」と話す。

画像 「本人を認証するという社会秩序を保つ重要な技術ゆえに、官民挙げての強力な推進が必要」と語る中嶋氏

 日本と海外とでは、バイオメトリクス認証に対する進め方や背景が大きく異なっていることも課題だ。日本では、産業界が中心となってバイオメトリクス認証を普及させようとしているが、海外ではテロ活動の抑制など、あくまでも国が表立って活動を主導している。

 つまり、日本は産業界が中心であるため、バラエティーに富んだ技術が生まれやすいが、その半面、日本としての国際的な対応や社会的な見地からの政策的な対応は難しいものとなっているのが現状だ。

 国際標準化においても、バイオメトリクス技術に関係する企業人や学者個人の強い思いと、企業の負担で推進されている感は否めない。その点、海外では国が主導権を握っているため、バイオメトリクス産業の活性化に向けた対応を、国家政策として強力に推進できるわけだ。

 バイオメトリクス認証は、誰しも似通った人間の体の一部の情報を用いているため、デジタル技術とはいえ極めてアナログに近い技術といえる。この属人的なグレーゾーンの振り分け分けと、使えない人を皆無にすることが最も難しい部分でもある。

 バイオメトリクスの原点といえる精度の更なる向上をはじめ、脆弱性やプライバシーの保護、相互接続性、標準化など、多くの課題を解決しながらユーザーの信頼を得ることが重要である。

 「バイオメトリクス認証の技術や運用はいまだ発展途上」と断言する中嶋氏も、今後はさらなる技術革新があるとの期待感を示す。テロリスト天国の汚名返上のためにも、ぜひ日本が世界のバイオメトリクス技術を主導し、成果を上げるまでになることを期待したい。

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