IT導入事例から垣間見える「経営の真贋」「行く年来る年2007」ITmediaエンタープライズ版(2/3 ページ)

» 2007年12月25日 13時29分 公開
[大西高弘,ITmedia]

団塊世代の引退も大きく影響

 こうした、ほんの数社の取材からでも、分るのは、各企業の現場の能力の高さである。コスト管理は大まかであっても、高いレベルの製品を納期内に利益の出る形で市場に送りだし続ける能力は、現場の強さが支えているとしかいいようがない。

 これも製造業だが、ある企業の担当者は、設計変更の履歴が正確にデータ化され、共有されなかったのがこれまでの課題だと語った。

 設計変更が共有できなくて、どうして問題のない製品が作れるのですか、と思わず聞きたくなる。しかし実際はその会社にしても業界では定評のある製品を作っている企業であり、当然多額の利益を出している。

 問題のない製品を作っているのは、現場が設計変更などの情報を自分たちのやり方でうまく共有しているからなのだ。こうした会社がITを使って生産現場の情報をデジタル化し、管理しようとする動機は、団塊世代の退社である。

 あうんの呼吸で強い現場を支えてきた中心世代は、団塊世代なのである。最初に生産現場に下りてきた設計図面に変更が必要になると、赤ペンで細かな修正指示が書き込まれ、それが必要な担当者に正確に行き渡る仕組みが、現場にあったからこそ、世界シェアの一角を担う存在感を示すことができてきたわけだ。

「強すぎる現場、弱いマネジメント」

 こうした事例を取材してくると、製造業に限らず、多くの企業で現場の強さを感じることが多い。しかし、言い換えると「強すぎる現場、弱いマネジメント」ということにもつながらないだろうか。

 システム導入において、IT部門は、現場とマネジメントの間をつなぐ立場といわれることが多い。ただしIT部門が現場に導入するシステムは、多くの場合、管理をする、つまりマネジメントサイドが使うものであることが多い。株主や投資家、時には親会社が要請するもの、ということもある。つまり、IT部門あるいは導入プロジェクトのヘッドクォーターは、どうしてもマネジメント側の声を代弁することになる。

 厳密にいえば、ここでいうマネジメントというのは、経営陣サイドに近いマネジメントである。現場にもマネジメントはある。IT部門は導入において強い現場のマネジメントに寄り添うというより、弱いというわけではないにしても、現場の細かな実態までは把握していないことの多い経営側のマネジメントに寄り添ってプロジェクトを進めることがほとんどだ。

 ERPにしても、生産管理システムにしても、まずは「経営全体の把握」を目指したものなので、ここから考えても、よく指摘される「IT導入ではトップが先頭に立って進めるべきだ」などということは当然のことなのである。そのシステムを最も必要としている立場の人間が先頭に立たなければ、人は動かない。

 エグゼクティブマガジンに「間違いだらけのIT経営」というコラムを連載中の増岡直二郎氏は、次のように話す。

増岡直二郎氏

 「トップの積極的な関与が、IT導入成功の大きな要因となる。しかしITに対して嫌悪感を抱く経営者もまだいるし、関与の仕方が偏っていたりしてかえって現場が混乱するケースもある。IT部門や経営管理部門なりが、積極的にリードしそれによって、現場の業務改革が実現するという流れを意識することも大切だ。いずれにせよ、改革にはITありきではなく、もう一度業務を見直し、どこまで改善できるかをぎりぎりまでディスカッションしていくことが大切だ」

 いくら、強い現場といっても、手書きで設計図を修正して作業を進めていくことに、不安はつきまとうはずだ。ましてや、何か事故がおこった時に外部に対して、分かりやすくその原因を説明する際、手書きの設計修正の履歴だけでは十分に納得させられることは難しいかもしれない。IT導入以前にどうすれば作業を標準化できるのか、を考えていれば、団塊世代の引退で慌てることはないはずなのである。ただ、そんなことを言っても、細かなノウハウはその世代が長年培ってきたケースが多く、全てがこれから中心となる世代に伝承されているはずもない。

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