SaaSとは、インターネットを経由してソフトウェア機能をサービスとして利用契約する形態だ。Webブラウザさえあれば、契約後すぐにソフトウェア機能を利用できる。1998年ごろに登場したASP(Application Service Provider)の進化系とされ、企業はシステムの初期コストを軽くでき、運用管理コストを削減できるなど、その基本的なコンセプトはASPと同じ。
しかしASPは、ブロードバンド環境が整っていなかったり、アプリケーションのカスタマイズのしにくさなど、ユーザーの使い勝手の悪さを克服できず、注目の割には現実的な選択肢となることは少なかった。結果、ASPという言葉は盛り上がったものの、掛け声だけで空回りしてしまった。
IDC Japanによると、SaaSという言葉が登場したのは2006年とされる。これほど注目が集まるのは、SaaSがこれらASPの弱点を克服しており、企業の情報システムの在り方やソフトウェア業界に大きなインパクトを与える可能性が出てきたからだ。
Salesforce.comなどが実現しているマルチテナント型アーキテクチャは、物理的なサーバ環境を複数企業がシェアすることで、ハードウェアや運用管理の費用を抑えることを可能にした。これにより、事業者はスケールメリットを出しやすく、これがユーザーに向けて、より低コストなサービスへとつながっている。
また、メタデータによるカスタマイズを可能にしたことで、共通のコードを利用しながら、個別のニーズに応じたカスタマイズを提供できる。1つのバージョンですべての企業をサポートできるため、これもスケールが出るほど保守費用を低減できるわけだ。
SaaSがASPの限界を超える可能性を秘めているのは、このような技術的な革新がSaaS事業者のビジネスを支えており、それがユーザーの利便性となって還元される仕組みとして回り始めたためだ。
ただ、SaaSビジネスはライセンス型の伝統的なソフトウェアビジネスに比べれば、顧客単価が低いため投資回収までに時間が掛かる。前述のようなロングテールによるスケールメリットが発揮されるまでは、ベンダーには厳しい時期が続く。
野村総合研究所技術調査部主任研究員の城田真琴氏は「Salesforce.comでもまだ安定した営業利益を上げられていない」と話している。
特に、パッケージを売ってきたソフトウェアベンダーにとっては、既存のパートナーとの関係をどうするかなどのしがらみも抱えており、SaaSビジネスへの移行は難しいといわれる。
とはいえ、SaaSメリットは着実に企業に受け入れられるようになってきた。小規模だが、SaaSを選択する企業は短期導入を魅力に感じ、採用する企業が相次いでいる。
計測機器などの製造販売を行うコニカミノルタセンシングは、SaaS型CRMアプリケーションで保守契約管理システムを構築したが、3カ月以内にシステム導入を行う必要があったことを理由にSaaSを選択している。不動産情報サービスの東京カンテイは、情報システム部門の案件管理システムを2日間という短期間で導入した、という。
業界を問わず国境を越えた競争が激化する中「Time to Market」でのシステム導入は生命線。自社開発やカスタマイズを前提としたパッケージ導入といったこれまでのやり方で、差別化しなければならないシステムはそれほど多くないことに気付いている。
ユーザーのシステム導入はもはや「自社開発か、パッケージか」という選択肢だけではなくなっており、ソフトウェアベンダーは何らかのかたちでSaaS対応を進めざるを得なくなっている。
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