業界横断の情報集約力で流通にインパクトを日本のインターネット企業 変革の旗手たち

月間ページビュー1億8千万、ユニークユーザー数200万人を誇る化粧品情報専門サイト、「@cosme」。ユーザーのクチコミ情報を中心に、化粧品に関する独自の情報力は多くのユーザーやブランドに高い支持を得ている。その@cosmeを運営するアイスタイルの吉松徹郎代表取締役社長兼CEOに、インターネットビジネスと化粧品のマーケティングについて聞く。

» 2008年01月01日 00時00分 公開
[聞き手:柿沼雄一郎,ITmedia]

 アイスタイルは@cosmeサイトの運営を軸に、インターネットを使ったマーケティングやリサーチ、コンサルティングサービスを提供する企業だ。@cosmeの会員数92万人が発信する情報をデータベース化し、業界横断型の情報サービス提供を目指している。

ITmedia @cosmeのユーザーはどのような人々なのでしょう?

吉松 ユーザーの年齢層はいわゆるインターネットユーザー層とほぼ一致します。平均で28歳、モバイルユーザーを含めると22歳で、化粧品にお金を使い始める社会人のユーザーが多いです。面白いのは、だからといって高額な商品ばかりに注目が集まっているわけではなく、100円ショップで売っているような化粧品も、気兼ねなく大量に使えるということで、若年層から年配層まで、幅広く支持されているという点です。

アイスタイル 代表取締役社長兼CEO 吉松徹郎氏

ITmedia インターネットビジネスのきっかけは?

吉松 わたしは就職氷河期と言われた1996年に、アンダーセン・コンサルティング(現在のアクセンチュア)に入社しました。Windows 95が発売された翌年でしたが、Eメールアドレスを持っていた企業はまだ少なく、商談の際に珍しがられたりもしました。また、イリジウム携帯の普及や99年のiモード登場などを体験して、これから世の中が変化していくだろうという予感みたいなものを体で感じていました。

 コンサルの業界で揉まれながらも、3年目でようやく一人前の自覚みたいなものが生まれてきたころ、ネットビジネス書の走りでもある「ネットゲイン(ネットで設けろ)」という書物の出版に同期の友人がかかわりました。それをはじめ、ネットベンチャーへの転職といった現象が周りの友人たちの間で次々と起こり始めます。

 それでも、当時の私はコンサルの仕事をやめるつもりはまったくありませんでした。が、当時化粧品会社に勤務して商品開発をしていた婚約者の山田(現在アイスタイル代表取締役兼@cosme主宰を務める山田メユミ氏)が、使った化粧品の感想を人に伝えようとメールマガジンの発行を決め「まぐまぐ」上で会員の募集を行いました。すると、発行前にもかかわらず550名を超える登録ユーザーが集まったのです。当時、最大のユーザー数を誇っていたまぐまぐで最も発行部数の多いメールマガジンが2700部程度だったことを考えると、驚異的とも言える数字です。このことが、わたしが化粧品業界に注目することになった大きなきっかけです。

 そうして調べていくうちに、再販制度や製品区分(対面販売など製品によって販売の形式が異なる)といった業界ならではの仕組みというものが理解できてきました。国内の6兆円という広告市場で最大のエリアを占めているのもこの業界です。これらのことからEコマースには有利な分野だということが分かったとき、コンサル出身のわたしは試算を行いながら事業計画書を作っていきました。こうしていまのアイスタイルができあがったわけです。

自分の力を試すための起業

ITmedia そうは言っても、まだ当時のインターネットはビジネスの基盤としては未知数でした。そこに何を見たのでしょう?

吉松 もともと起業したいとか社長をやりたいといった願望はありませんでした。けれども、当時手元には結婚資金として借りた500万円がありました。目の前にやりたいことがあり、それをやれるだけの資金がある。その瞬間、今こそが自分の力を試す機会なんだと感じたのです。

 もちろん、結婚を控えていたので周囲の並々ならぬ反対はありました。そのときわたしは、これからの自分について考えたんです。そのままコンサル業に2年身をおいて、「コンサルを5年経験しました」というのと、ここで起業して「コンサルの経験を生かして起業し2年間やってきました」というのでは、自分のマーケットバリューとしてどちらが上か? ここは後者だろうと判断したのです。

自分を磨くために起業したという吉松氏

ITmedia ご苦労されたことは?

吉松 はじめはビジネスがうまく回らず、年収は100万円台でしたが、つらいと感じたことはありませんでした。ひたすらやると決めたことを昼夜問わずやり続ける、まるで文化祭前日が丸々2年間続いていたようなものでした。何もない状態からやりたいことを形作っていくというプロセスでしたから、失うものは何もありません。今年で9年目になりますが、今までを振り返ってみても、起業した当初の1〜2年の記憶が半分以上を占めています。当時と比べると、大きくなった現在の事業をマネジメントするほうが大変なこともあります。

ITmedia そもそも化粧品を扱うことが強みとなったわけですが、フォロワーに対する一日の長とは?

吉松 99年に会社を設立した時のコンセプトでは、もともとクチコミサイトをやろうと思っていませんでした。ちょうどそのころ世間ではCRM(情報による顧客関係管理)という考え方が広まってきていましたが、そのデータをどう活用するかの手法については混沌かつあいまいとしていました。ビジネス上欲しいと思う顧客データは、資生堂もカネボウもコーセーも、つまるところ業界全体が欲しいわけです。であれば、化粧品を買う人々についてメーカーを横断し、共通化された顧客データベースを作ろうと考えたのです。これがアイスタイルの目指すデータベースです。分析を標準化するために、ユーザーの総合満足度において7点満点の評価を行う一点評価でやってきています。

 データがあることが重要ではなく、価値につながるデータを蓄積することに集中して取り組んできたこと。蓄積されたデータがきちんと価値のあるデータであること。これがアイスタイルの強みです。流通に対していかにインパクトのある仕組みを作るか、これを常に考えています。

ベンチャーを支えるインターネットの可能性

ITmedia Web2.0という言葉に代表される先進技術に対して活用を含めてどう考えますか?

吉松 @cosmeはトラックバックもなくRSS配信もないといった意味ではオールドスタイルですが、さまざまなクチコミデータは最初にユーザーが書き込みを行います。そういった意味ではユーザー主導で発信されるメディアであり、本質のところで2.0的であるとも言えるのではないでしょうか。余談ですが、マスターデータベースをオープンにするこの方法は、設立当時にも社内でいろいろと議論がありましたが、メンテナンスをきちんと行うという前提でこうした方法に踏み切りました。

ITmedia 人材に対してはアイスタイルでは何を求めますか? またベンチャー企業の魅力とは何でしょう

吉松 アイスタイルにはいろいろな人材が集まってきます。化粧品への興味がある、データを活用して分析をしたい、など目的はそれぞれです。会社の売上に貢献したい人もいれば、困っているユーザーに手を差し伸べたいという人もいますから、人材に対する考え方も多様化しています。ただし共通して求めることは、消費者中心にビジネスを行っていくという視点を持てる人です。そしてアイスタイルという会社を、仲間とともにやりたいことを実現できる場所として考えてもらえるとよいですね。

 アイスタイルは100人ほどの会社ですが、非常に多くのユーザーと化粧品メーカーが欲しいデータを抱えてビジネスを広げています。会社として、常に存在価値のある、そんなベンチャーを目指しています。

ベンチャーの魅力は、というとインターネットによって、起業できる環境ができたことも大きいですし、エキサイティングですね。新しい市場を作りたいなら断然ベンチャーです。

休日でも事業企画書を書いていることが多いというほどの徹底したコンサル仕事人だ

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