四国の松山で仲間3人が創業した企業が、10年目に掲げる目標は、ユーザーが何も意識せずとも、導入しただけでチームワークが生まれてしまうグループウェアを作ることであった。
四国の松山で仲間3人が創業した企業が、10年目に掲げる目標は、売上げでも利益でもない偉大な価値――ユーザーが何も意識せずとも、導入しただけでチームワークが生まれてしまうグループウェアを作ること――であった。自らを素人社長と控えめに話すサイボウズ代表取締役社長の青野慶久氏に話を聞いた。
ITmedia 青野さんがサイボウズの代表取締役社長に就任されたのが、2005年4月のことでした。この2年半ほどの間を振り返ってみていかがですか。
青野 一言でいえば、素人社長が後悔しながら突き進んできた密度の濃い2年半でした。 これまで、12社のM&Aなども手掛けてきました。わたしとしては、「自分の立てた戦略がうまく行くだろう」という思いがあるわけですが、現実には常にうまくいくわけではありませんでした。
ITmedia それは何が問題だったのでしょう。
青野 一番足りなかったのは戦略策定でも人心掌握でもなく、「真剣さ」ではないでしょうか。
本当にサイボウズを世界で一番の企業にしたいのかと問われた時に、それまでは「頑張ります」だったんですね。しかし、そんなレベルではなく、「何があっても達成する」という「覚悟」が欠けていたように思います。もちろん手を抜いていたわけではありませんが、「頑張る」と「命がけ」というのは言葉の印象以上にレベルの違う次元です。草野球チームだったサイボウズがプロ野球、さらにメジャーリーグを目指すためには、断固たる決意や組織の規律が必要なのです。そんな意識をわたし自身も組織も持つようになってきました。
ITmedia 日経コンピュータの顧客満足度調査グループウェア部門では7回連続で1位を獲得しており、ブランドとしても十分に確立したような印象を受けます。そうした現状からすると、気負いすぎなのではと思うのですが。
青野 サイボウズの企業理念として「世界の豊かな社会生活の実現に貢献する」というものがあります。世界に進出することはサイボウズのDNAからすると必然であり、日本は圧勝して当然という思いがあります。
しかしながら、この10年を振り返ってみたときに、われわれは世界に対して現実的には何もできていないわけです。方や、検索の企業だと思っていたGoogleが今やGoogleグループのようなグループウェアを提供する時代になり、そこに危機感を感じるわけです。
サイボウズが日本でここまで成長したのは、日本の「和の文化」、つまり、チームワークを大事にする文化において、グループウェアがそれを体現するものだったことも一因ではないかと思います。一方で、海外のグループウェアというと、きわめて個人主義的な視点で作られています。ここで、グローバル化や個人主義といった考えの下に妥協することなく、グループウェア事業を通してチームワークの文化を海外へと広めたいのです。
ITmedia グループウェアの市場性はどうお考えですか?
青野 われわれの製品は現在約260万ライセンス出荷されていますが、ビジネスユーザー全体からすると、これはまだ10%程度にすぎません。今後、グループウェアがメールのように大衆化するには、グループウェアの必要性が分からない人でももっと簡単、もっと安全に使えるようなものにしていくことが必要となるでしょう。
サイボウズがロールモデルの1つとしている任天堂も、その歴史の中ではさまざまな事業の多角化を図った時期もあります。しかし、帰着したのは、やはり「玩具」という視点でした。現在、老若男女を問わずWiiやNitendo DSが楽しんでいることからも分かるように、ゲームの市場に絞ったとしても成長が止まることはないわけです。グループウェアも同様です。1人が所属するグループは必ずしも1つではないことを考えても、既存のグループウェアにはまだまだ進化の余地があります。色気を出してよく分からない事業に手を出すのではなく、グループウェアをもっと深掘りした方がいい企業になると考えています。
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