「ワンマンコントロール」と「潔さ」――富士通トップ交代Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2008年04月01日 16時00分 公開
[松岡功ITmedia]
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最優先される風通しの良さ

 「富士通の最大の経営課題はグローバル化にある」(野副氏)

 記者からの経営課題に対する質問にこう答えた野副氏は、その対策について個々の事業や製品・サービスをあげながら説明した。グローバル化は次期社長にとってまさしく大命題となるが、黒川氏がそれを野副氏に委ねたのは、野副氏の豊富な海外勤務経験を見込んだからだ。「海外勤務経験は私にはない部分。その強みをグローバル戦略に活かしてほしい」との黒川氏のコメントが、それを物語っている。

 「富士通にはグローバルにも若くて優秀な人材がたくさんいる」(野副氏)

 このコメントには少々説明が必要だ。記者から「グローバルな競合企業のトップと比べて、年齢が一世代違うことをどう考えるか」と聞かれた野副氏は、「年齢のことを言われると何とも答えようがないが…」と前置きして上記のように続けた。そして「そうした人材を活かしながら、しっかりとマネジメントしていくのが私の役目だ」と結んだ。この質問については黒川氏も、「最も大事なのは年齢よりも、その人の能力および人格だ」と強調した。

 会見全体を通して筆者がまず強く感じたのは、黒川氏の「潔さ」である。ワンマンコントロールに強い危機感を抱き、取締役にも残らずスパッと身を引いた。さらに秋草会長と相談し、共に相談役となることで新経営陣に自由に手腕を発揮できる環境を提供した。秋草氏は社外活動があるため取締役に残るが、それも1年後をメドに外れる見通しだという。

 黒川氏は会見で「ワンマンコントロールの弊害」を説明する中で、「権限委譲は十分行ったつもりだが…」「常務会でも何で意見を言わないのかと問うたんだが…」などと、自らの悩んだ様子も包み隠すことなく吐露した。社長在任の5年間で業績を建て直した黒川氏の経営手腕は、ワンマンコントロールを抜きには語れないだろう。しかし、それで目に見えて実績が上がってくると、周りはその功績者に尊敬の念を込めて一目置くようになる。その一目が、時が経つにつれ微妙な距離となって、そこには壁ができてしまう。こうした現象は避けることができないものなのか。黒川氏の胸の内を察すると、そうした思いに至る。

 とはいえ、どんな経営手法だろうと「風通し」が悪くなったらだめ、というのが経営の「あるべき姿」だ。黒川氏は最後に自らの処し方を示し、会見で本音を語ることで、それを次代に伝えたかったのではないだろうか。

松岡 功

まつおか・いさお ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。


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