大規模なコラボレーション活動を成功に導く5つの原則――パート1Magi's View(2/3 ページ)

» 2008年04月07日 00時00分 公開
[Charles-Leadbeater,Open Tech Press]
SourceForge.JP Magazine

貢献

 創造的活動を行うコミュニティーが成功するには、さまざまな発想や見解を持つ人材が適度な比率で参加している必要があり、また貢献活動を可能とするツールへのアクセスも不可欠である。We-Thinkもその出発点として、貢献できるのはどのような人々か、そうした人々は何の貢献ができるか、そのような貢献をする理由は何か、貢献をする際は具体的にどのような活動をするのかという一連の問題について、その正しい答えを得ることから始めなくてはならない。

 創造的なコミュニティーは一種の社会構造を有すものである。一般的に中心的な活動の大部分をこなすのはコアとなる比較的少人数のグループとなる傾向が見られるものだが、その具体的な事例としてはSlashdotでの討論のモデレータたちやSecond Lifeの最初の住人たちのことを考えればいいだろう。これはいわばWeb 2.0世代の貴族政治なのであり、長きに渡りより多くの作業をこなしてきた者こそが、その意見をより多く採り上げられるのである。こうしたものはごくありふれた現象のはずだ。

 企業にせよ劇団にせよ研究所にせよ革新的なプロジェクトというものは、志を同じくする者や共通の問題に取り組む者からなる少人数グループ内で形成される緊密なコラボレーションが出発点となるものであり、例えばケンブリッジ大学のシドニー・ブレナー博士を中心に線虫研究者が集ったのもこれと同じ現象である。ただしこうしたタイプのコミュニティーは、閉鎖的で内向き思考にとらわれる危険性を有している。そのような閉鎖性を打破し、より多様な貢献者を迎え入れて既成概念に挑戦する意欲や知識を注ぎ込んでもらうには、外の世界に対するオープンな姿勢を保たなければならない。

 We-Thinkプロジェクトが始動し始めるのは、中程度の意欲を持ってプロジェクトに参加するより多くの群衆を引きつけられるようになった段階である。こうした人々による1つ1つの貢献は散発的で重要度も小さいが、それらが集結して得られる成果はコアグループの人間が初期段階にて行う活動に匹敵する貴重な存在となる。例えばLinuxの場合、コアを成す主要プログラマー約400名に対して、コミュニティーメンバーとほぼ重なる一般の登録ユーザー数は15万人近くに達しており、後者による貢献はプログラム中のバグを見つけてリポートしてくるという活動が大半を占めている。

 しかし、こうしたリポートの1つがスタート地点となって、新たに重要な革新をもたらす場合もあるのだ。つまりこの場合、いわば群衆にすぎない人々による活動が、より精力的に取り組むコアメンバーの知的成果と同程度に重要な貢献をしたことになる。もっとも、このように雑多な群衆が知的な成果をもたらす前提としては、その構成員がさまざまな視点から物事を眺め、各自の意見を公に発言するだけの自信と主体性を有していなければならない。

 例えばミシガン大学にて複雑系を研究しているスコット・ペイジ教授は高度なコンピュータモデル計算を用いて、さまざまなスキルと見解を有す雑多な人間のグループと似通ったスキルと見解を有す特別優秀な人間のグループとでは、前者の方が優れたソリューションを導き出す頻度が高いという結論にたどり着いている。これはつまりさまざまな考え方をする雑多な人間から成るグループによって、より優秀ではあるが質的には均一な人間から成るグループが打ち負かされる可能性を示している訳だが、ペイジ教授がその前提として指摘しているのは、前者が適切な状態に組織化されているという条件なのだ。

 こうした現象に対するペイジ教授による説明は、複雑な問題は展望の広いより多くの視点から見ることで解決しやすくなるというものである。例えば同質の思考をする専門家が集まったグループの場合その中の1人が行うのと大差ない発想での問題解決しかできないケースが多いように、思考パターンの共通する人間を数だけ増やしたとしても、多様なソリューションを導くという観点におけるグループ全体としての発想力はそれほど向上しないのだ。このように同じ発想しかできない人間の集団が共通する特定のポイントで一斉に行き詰まる傾向にあるのは、登山隊が最終的なゴールである最高峰の手前の山のピークで立ち往生している様子を思い浮かべればいいのかもしれない。それに対して各メンバーごとに多様な思考をするグループであれば1つの問題をさまざまな角度から検討できるため、特定の地点で行き詰まる可能性そのものが低い上に、仮に袋小路にはまった場合でも何らかの脱出策を見つけやすいのである。

 このように視点が多様であれば、より多くの候補となるソリューションを導ける可能性が高く、同時にそうした候補を多面的に検討することもできる。また一見すると困難な問題であっても、方向を変えて検討することで意外と簡単に解決できることもあり得るだろう。実際、革新的な成果を導く過程においては、さまざまな方向からの検討により問題の単純化を図るという試行錯誤のステップを踏むケースがおうおうにして存在するものなのだ。例えば、「こうした手順では電球は作れないという方法を過去に1000通りほど発見しました」と語っているのは、かの発明王トーマス・エジソンである。

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