コラム
» 2008年04月07日 12時00分 公開

Weekly Memo:日本企業の“生命線”――知的財産戦略 (2/2)

[松岡功,ITmedia]
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「開放」と「独占」という方向性

 ここで少々補足説明を加えておきたいのは、スタンダード戦略についてだ。富士通の事業領域である情報通信の分野では、自社の技術だけで1つの市場をつくるのは困難であり、各社が標準化された技術を利用し、相互接続性・互換性を保ちながらさまざまな製品を提供することによって、市場が形成されていく。そうした状況では、自社技術が国際標準に採用され、また関連する特許を保有していることによって、事業遂行を有利にすることが可能となる。したがって、国際標準化への参画は、事業戦略においても重要なポイントとなるのである。同社ではグループ全体を俯瞰して、戦略的に標準化活動を推進するためにスタンダード戦略を立案し実践するための専門組織を設け、知財の強化と活用を図っているという。

 ただし、このスタンダード戦略と知財戦略は、考えてみると対極的な関係にある。端的に言うと、スタンダード戦略が「開放」なのに対し、知財戦略は「独占」という方向性を持つ。実はここにトータル的な知財戦略の“勘所”がある。説明会の後、加藤氏にこの「対極的な関係」について尋ねてみたところ、「まさしくその相反する2つの戦略をどのように使い分けながら経営戦略に生かしていくかが、私たちの仕事であり使命です」との答えが返ってきた。

 さらに加藤氏はこうも語った。「その相反する2つの戦略を法務・知財部門が担っているのは、法務・知財部門が全社組織を横断して当社が扱う技術情報を一括して取りまとめられる立場にあるからです」

 同氏によると、こうした取り組みは富士通の歴史的な背景に基づく特有の経緯もあるというが、特許管理のイメージが強い従来の知財部門からすると、かなり幅広い業務をカバーしているようだ。

「目に見えないもの」で計る時代に

 一例を紹介しておこう。研究開発のテーマを決めるプロセスではこうだ。まず研究テーマの設定にあたっては、現在の事業展開に併せて必要な研究テーマと富士通の将来の事業を見据えて必要となるテーマについてロードマップを作成する。そして、それぞれのテーマについて技術動向調査を行い、テーマを知財の観点からも評価する。その評価結果を利用して研究開発に注力する分野を決め、併せて特許の集中出願を行う。その後は、注力した研究開発を適宜評価して見直す。その時に特許についても確認を行い、出願中の案件のブラッシュアップや出願の強化などを図り特許網を構築する、といった具合だ。

 この中で同社の法務・知財部門は、特許に関するところだけではなく、ロードマップ作成や技術動向調査、テーマの評価・見直しなどもサポートしており、事業活動の早い段階から法的な面や知財の面などから多面的な分析を行い、経営判断や戦略立案に深く関わっている。

 昨年末、筆者は知財分野の第一人者である東京大学 国際・産学共同研究センター客員教授の妹尾堅一郎氏に、企業における知財活用について話を聞く機会を得た。

 妹尾氏によると、これからの企業経営は「有形資産重視経営」から「無形資産重視経営」へと変化し、これまで企業価値というものを、土地やビル、工場、設備、現金などといった「目に見えるもの」で計ってきた時代から、知財に象徴される「目に見えないもの」で計る時代になるという。

 そうした変化をしっかりと認識したうえで、知財戦略をどのように推進していくか。その意味では、富士通のような先進的な取り組みも大いに参考にすべきだろう。企業にとって知財戦略は、自らのアイデンティティを明確にするとともに、これからのグローバル競争を勝ち抜く重要なポイントになるのは間違いない。とくに日本企業にとっては“生命線”になるような気がしてならない。

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松岡 功

まつおか・いさお ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。


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