ソフトウェアも“Cool Japan”と呼ばれたい――新しい挑戦が新しい成功を生むNext Wave(2/2 ページ)

» 2008年05月09日 15時51分 公開
[幾留浩一郎,ITmedia]
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大きな絵図を描け

 私は、20年前から米国に住み、多くの先端的なシステム開発プロジェクトへの参加をするうちに、当時IT産業のトップにある米国で世界に通用する製品を作ることに挑戦したいという思いが強くなり、10年前にカリフォルニアで現在の会社を設立した。そしてそうした経験を通しても、日本人が本質的にソフトウェアに弱いということはまったくないと思っている。考え方や仕組みを変えることができさえすれば、日本のソフトウェアも世界のトップレベルに押し上げられる可能性が十分あると思っているからだ。

 過去30年を振り返ると、米国を中心にIT産業が大きく発展した原動力はベンチャー企業であり、それを支えたのはベンチャーキャピタルであると感じる。日本もやっと10年ほど前から、米国をまねてベンチャーを支える仕組みが形作られてはきたが、まだまだ「規模」と「領域」に関しての認識が不十分だと思う。

 IT産業は今や巨大化し、かつグローバル化している中、新しいベンチャーを成功させるには驚くほど大きな資金が必要となるケースが多い。しかし日本のベンチャー投資規模は米国のそれに比べてけた違いに小さい。

 日本にお金がないという理由は見当たらない。日本からの巨額の投資マネーは、日本のソフトウェア産業の発展のためには回らず、皮肉なことに米国に流れているのである。

 大きな投資を受けられるようにするには、大きな成功の絵図が必要である。つまりグローバルな市場を意識したビジネスプランが不可欠なのだと思う。しかし日本のベンチャーには日本市場しか見えていない場合が多いようだ。日本は米国と比べると言葉の問題などハンディがあるのは確かであるが、企業自体が境界線を引いてしまっている「考え方」にも問題があるように感じてならない。

 ベンチャー企業にしても、ベンチャーキャピタルにしても、すでに利益を上げることができるビジネスとして運営されてしまっている状況では、その流れを変えることは簡単ではないと思うが、不可能なことではないはずだ。

Googleという「巨大な成功」

 例えばGoogleの場合は、設立初期、検索エンジン自体の技術的優位性はあるものの、収入もほとんどない会社であった。どうやって利益を生み出すかに関してはまともな事業計画さえなかったと言われているが、そこにベンチャーキャピタルが3000万ドル(30億円以上)の投資を行った。ネットバブルの時期であったとはいえ驚異的な金額である。検索エンジンの開発にそんな巨額の金が必要だったのであろうか?

 Googleの優位性は検索エンジン技術そのものにもあることは当時から変わらなかったが、それは世界中の膨大なデータを集め、どんな情報でも瞬時に検索できるように具現化し、かつそれを世界中の人々が毎日利用するようにして初めて理解され、価値を生み出すものとなる。検索エンジンの技術を高めるためだけであれば少ない投資でも十分実現可能であるが、検索エンジンの価値を高め、コンシューマーをワールドワイドで増やしていくことを実現するには巨額の資金が必要であった。

 投資は大きな賭けであり、Googleに投資された30億円も泡と消える可能性は十分あったと言える。

 事実Googleは数年で資金がなくなりかけた時期もあったが、この賭けに勝った。その結果たった10年で、日本中のどの企業よりも高い時価総額を持つ会社が創造されたのである。当時検索エンジン技術ならGoogle以外にも、Yahoo!を始め多数開発されていたし、日本にも面白そうな技術があったが、今では大手プロバイダの検索エンジンのデータベース部分にGoogleが利用されているなど、Googleは世界中の人々から毎日利用されるまでサービスとして高めることができたことに、他の検索エンジンとの決定的な違いをうかがうことができる。

 Googleの成功は米国でも異例ではあるが、最近のIT産業分野への投資規模が再び巨大化しているのは確かである。Googleのような1つの巨大な成功が次の挑戦者達への十分な投資へと連鎖して、これが米国の強さを生み出していると言える。

見えない境界線を取り払え

 90年代初頭に、Microsoftのビルゲイツは、「過去に成功した企業は新しい時代の成功者にはなれない」ということを言った。当時彼は、IBMなどを過去の成功者を言い表したのだろうと思う。しかし今や、Microsoft自身が、Googleから逆に過去の成功者と言われる立場になっているように思えて面白い。確かに新しい成功は新しい企業からしか生まれないのである。IT産業はその技術革新の速さから、特にそれが顕著な産業だと思う。既存の組織や過去の成功体験に頼るだけではなく、常に新しい企業を生み出し続ける社会の仕組みとそれに挑戦する人達を作ることが重要なのである。

 日本には十分な潜在能力はある。自分たちで気付かないうちに引いてしまっているさまざまな見えない境界線を取り払い、挑戦すればいいだけだと思う。「成功の連鎖」を持続させていくことで、産業としての強さが備わってくるはずだ。それができれば日本のソフトウェア産業も“Cool Japan”と呼ばれるようになるだろう。

プロフィール

いくどめ・こういちろう AuriQ Systems, Inc. 社長兼CEO。リアルタイムWebアクセス解析システム「RTmetrics」をはじめとするソリューションで、企業のオンラインビジネスを支える。東京工業大学卒業後、新日本製鉄、Infogy社を経て2002年より現職。18年以上のIT産業におけるビジネス経験を持ち、現在、米国と日本を往復する毎日。


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