SaaSを使わない理由――IT投資調査からアナリストの視点(1/3 ページ)

矢野経済研究所は、国内のユーザー企業565社を対象にアンケートを実施し、IT投資に関する動向を取りまとめた。

» 2008年05月14日 08時00分 公開
[石塚俊(矢野経済研究所),ITmedia]

 矢野経済研究所は、国内のユーザー企業565社を対象にアンケートを実施し、IT投資に関する動向を取りまとめた。調査結果を基に、2007〜2009年度におけるユーザー企業のIT投資の状況を概観してみよう。

 今回の調査では、IT業界でのトピックになっている「SaaS(サービスとしてのソフトウェア)」、「内部統制強化」などを取り上げた。

SaaSを利用しない理由

 SaaSに関しては、実際にビジネスで成功しているシステムインテグレーターやITベンダーはまだ数えるほどしかなく、普及しているとは言い難い状況だ。そのため、今回の調査では、ユーザーの意識を知ることを目的にSaaSに関する質問を設定した。

 今後3年間のSaaSの利用意向に関する質問では、「なし」の回答が68.8%と「あり」の30.1%の2倍以上あった。さらに、後述する「IT投資の製品別構成比」の回答で、2009年度のSaaSの構成比が全体の1.5%に留まる見込みになったことからも考えると、今後数年間はSaaSへの大きな投資は期待しにくい結果になったといえる。

 SaaS普及に当たっての障壁を知るために「SaaSを利用しない理由」も質問したところ、最も多かった回答は「互換性/システム間移行が難しそうだから」であり、次に「カスタマイズ性に乏しそうだから」「操作性(使い勝手)」と続いた。

 「互換性/システム間移行が難しそうだから」の回答が最も多かったことからも分かるように、SaaSの導入における最も大きな障壁は、既存システムの存在であろう。既存システムの代替品としては、能力がまだ不足していると考えられているようだ。また既存システムと連携させるにしても、共通プラットフォームを利用するSaaSの互換性に懸念を持っているようである。

 次に「カスタマイズ性に乏しそうだから」、「操作性(使い勝手)」が上位にきたことから分かるように、ある程度のカスタマイズが可能だとしても、他社と共通のインタフェースで利用せざるを得ないなど、自社の状況に合わせて使用できないかもしれない点を懸念しているようだ。今後、SaaSが普及していくためには、これらの課題を解決していく必要があるだろう。

内部統制パッシング

 内部統制強化は、ユーザーに注目度を尋ねた「ITトピック」の選択肢の中で、最も回答数が多かった。しかしながら、「内部統制強化への過去の投資額」を質問したところ、「投資していない」という回答が最も多く、次に「100万円未満」が続くなど、これまでに内部統制強化への投資はほとんど実施されていないとも言える結果になった。

 「内部統制強化への今後3年間の投資額」の質問でも「投資予定なし」の回答が最も多く、次に「100万円以上500万円未満」、「500万円以上1,000万円未満」が続いた。投資額は若干ながら増加する見込みではあるものの、内部統制強化への大きな投資は今後も期待しにくいという結果になった。

 なお、今回の設問では、内部統制強化を「日本版SOX法への対応」として質問したため、法規制の対象にならないような小規模な企業の回答数が影響し、このような結果になったものと思われる。法規制の対象外の企業においても、上場企業と取引のある企業では少なからず経営に影響が出てくる可能性があることを考えると、内部統制強化に関連したIT投資は、今回以上に増加していくものと考えられる。

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