ユーザーが発するIT用語が正しい意味で使われているとは限らない。往々にして伝えたい思いがすれ違ってしまうのだ。難しいものですね。
ある日の午後、オフィスのエレベーターホールで突然呼び止められたわたし。振り向くと声の主は、友人兼同僚のA美だ。
A美 あ、ちょうどいいところに! 地獄にホトケってこのことよね〜、助かったわあ
まだ助けてないって。
(心の中で)そうツッコミつつ、相手をしてあげる。
わたし どーしたの?
A美 さっきからコピーができないのよ……。助けてお願い!
A美はわたしの腕をつかみ、引きずっていく。拒否権は無しですか? 仕方なく、ついていくわたし。
連れて行かれたのは彼女のデスク。待てよ? コピーができないって言っていたのに、なぜ行き先がコピー機ではなく、彼女の席なのかしら?
A美 これよ、これ。さっきから何度もコピーしてるのに、全然できないの。
彼女が指差しているのは、どう見てもPCだ。そういえば昔は、アレとか、コレとか、コイツみたいなプリンタ一体型のPCもあったが、イマドキ、そんなの聞いたことない(いや、そんなに昔からヘルプデスクをしていたわけじゃないのよ)。
一瞬の感傷にひたったわたしだが、コピー機(正確には複合機)はどこだ、と探してみれば、事務所のスミで静かにたたずんでいる。いくら、この部署に配置されているのが複合機であっても、コピー作業をしたいのならプリンタの前まで行かないとできないだろう。彼女が困っているのは、きっと“コピー”ではないのだ。そう思いつつ、念のために確認する。
わたし “印刷”ができないのよね?
A美 そうなの。さっきから何度も“コピー”しているのに……。
やっぱり。
エレベーターホールで鉢合わせたのは、ラッキーだった。これが電話でのやり取りだったら、何のことだかさっぱり分からなかっただろう。コトの顛末を理解するまでにかなりの時間を要したかもしれない。だって彼女の言う“コピー”はいわゆる“印刷”、つまりプリントアウトのことだから。これまでの経験から、ユーザーには「印刷」のことを「コピー」と表現する人が少なからず存在するということを学んでいたわたしだったが、それにしてもA美よ、お前もか。
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