そもそも、荒巻は軍隊上がりであるものの、9課のメンバーを単なる駒としては扱ってはいない。それは次の台詞に代表される。
『我々の間にチームプレイなどという都合のよい言い訳は存在せん。あるとすればスタンドプレーから生じるチームワークだけだ。』
つまりタイトルであるSTAND ALONE COMPLEX=個の複合を体現した台詞だが、それは彼自身のポリシーでもあるのだ。メンバー各人は修羅場をくぐりぬけてきた極めて能力の高いプロフェッショナルの集合体であり、一匹狼としてやっていける自負をもつ“個”なのだ。そして同時にそもそも集団で動くことを嫌う“孤”たちでもある。そういった能力は高いものの、協調性という言葉とは程遠いメンバーをどうマネジメントしていくのか。
スタンドプレーの容認ということは言い換えれば、メンバーに対する全幅の信頼がなければ成立しない。特に草薙“少佐”に対する信頼感は絶対といってもよく、その証拠に実際のオペレーション体制は二重構造をとっており、現場での判断はほぼすべて少佐に任されている。少佐との男女関係を疑われてもおかしくないくらいだが、そのかわり、荒巻は人間的でウェットな情の部分は意識的に排除している節があり、それは唯一の理解者であり元僚友である陸自情報部の久保田を慮るが故の表面上ビジネスライクなやりとりや、同じく亡くなった僚友辻先を「親友ではなくただの戦友」と断じる部分にも表れている。
それらはいずれも彼自身の過去を想像させるエピソードではあるが、垣間見せる人間性を結果、強調する。
そして真骨頂は1stシリーズのラストにおいて、一連の「笑い男事件」に絡み、政治的圧力により9課をスケープゴートにしろと暗に迫る総理に対し、『お待ち下さい!いついかなる時でも私を信じて疑わない部下への信頼、それこそ私が今まで築き上げてきた財産のすべてです!』と叫ぶ荒巻の姿であろう。
部下との関係はどこか恋愛関係に似ている。信頼=リスペクトの対象となる能力、特長とエモーションがあって初めて成立し、それは相互補完の関係となっている場合が多い。サイバーパンクにそのエッセンスを見ること自体、壮大な皮肉であるかもしれないが、それが“COOL JAPAN”の名作たるゆえんか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.