ギネスの陰に隠れた別のレース――Firefox vs OperaTrend Insight

正式リリースまであとわずかのFirefox 3。盛大な船出としたいところだが、駆け引き上手なOperaも黙ってはいない。さらに、Firefoxの開発でみえてきた“エンドユーザー”の存在……。

» 2008年06月11日 05時08分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 最新バージョンの正式リリースが迫り、ギネスを目指すFirefoxに思わぬ刺客が登場した。お互いInternet Explorerのシェアを奪わんと切磋琢磨(せっさたくま)してきたOperaが襲ってきているのだ。

 Opera 9.5、コードネーム「Kestrel」で知られているOpera Softwareの次期Webブラウザは、この4月にβ2が公開されていたが、Opera Softwareのヨン・フォン・テッツナー氏が2008年6月10日に「Dear Opera Community」と登場間近であることを表明、それに併せてOpera 9.5 RCが公開され、リリースタイミングを図っている。祭りを演出している様子もうかがえるため、よほどのことがない限りOpera 9.5 RC2はリリースされないだろう。

 一方のFirefox 3は現在、RC2の状態。どちらが先にリリースされても、お互い食い合ってしまうリスクを考慮すれば、同日かそれに近いリリースタイミングとなるのではないだろうか。もうまもなくリリースされるとみられる両者の舞台裏では、そのタイミングを巡る熱い戦いがくり広げられているのではないかと想像しながら待つのも一興ではないだろうか。

 ところで、大詰めを迎えるFirefox 3の開発では一騒動起きている。この問題については、多くの有用なエクステンションの開発で知られるPiroこと下田洋志氏のブログにある「Mac版Firefox 3正式版に、日本人ユーザにとって結構致命的な問題が残ってしまいそうな件について」というエントリで概要をつかむことができる。

 まとめると、今回問題になっている件は、RC1までは問題なかった(修正済みになっていた)が、RC2の段階でその修正が取り消され、タイミング的に正式リリースまでの再修正が絶望的になってしまった、というもの。この問題から生じる具体的な不便の例として、「ニコニコ動画でコメントを付けるとかUSTREAMのチャットで発言するときとかに、直接日本語を入力できなくて、必ずほかのアプリケーションかネイティブな入力欄に日本語を入力してからそれをコピペしないといけない、という感じ」と追記している。実際にはLinux版Windowsの一部の環境下でも同様の問題が発生しているようで、根の深い問題であることが分かる。

 そしておそらくこの問題が修正されることなくFirefox 3はリリースされるだろう。そして、ほどなくしてオートアップデートによって更新されることになるだろうが、それでもその間に生じ得るネガティブなイメージをどう回避もしくは最小化するか、そしてこうした事態を生んでしまった原因を考えるべきであるとする意見がコメント欄で寄せられている。

 この問題を通してみえてきたのは、フィードバックを通じてつながっていた開発者とユーザーの連鎖が切れはじめているのではないかということだ。掲示板なのかメールベースなのか、それは分からない、しかし、少し前の時代ではコミュニケーションが図られていた。

 各コミュニティーは時代を重ねるにつれ、独自の文化というのを知らずのうちに持つようになる。それはコミュニケーションにも影響を及ぼし、度を超すと、いちげんさんお断りな様相を呈してくる。メール、IRCなど、それぞれのコミュニケーションで同様の硬質化が進めば、そのコミュニティーを待つのはゆるやかな自死であることが多い。

 もちろんこうしたコミュニティーの硬質化とは別の要素もあるだろうが、ともかくエンドユーザーはその連鎖からゆっくりと解き放たれている。これにより、“開発者”と“ユーザー”という視点に“エンドユーザー”とでも表現すべき存在が誕生している。そんな彼らは、「バグは誰かが見つけて誰かが報告して、誰かが直すもの」――自分は何もせずに物事が常に思い通りに運ぶという思考に慣れてしまっているのだ。ただし、フィードバックすることに無関心なわけではない。やってもよいが、それが十分に簡単である場合のみ行動を起こせるのだ。そして、得てして彼らのニーズを満たすほど十分に簡単な手段は用意できないがため、“エンドユーザー”からのフィードバックは期待できず、結果としてさらにかい離が進むといったことになる。この次には、「技術的なリテラシーが低く、フィードバックも届けられないようなユーザーからのフィードバックを容易に得られるようにするのは意味があるのか」といった議論などが生まれると考えられるが、いずれにせよ、“エンドユーザー”をどう開発の輪に迎えるか、というのがMozilla Corporationの開発における課題の1つとして議論されるようになるだろう。

 今回のFirefoxのケースは、ユーザーの絶対数がほかのオープンソースソフトウェアと比べても比較的多かったため、一足先に直面した問題であると考えられる。今後、似たようなケースがほかのオープンソースソフトウェアにも波及するかもしれない。そのときのケーススタディとなるであろうFirefoxの動きもFirefox 3のリリースと併せて注目しておきたい。

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