若手が台頭しない野球チームと起業家が育ちにくい国Next Wave(3/3 ページ)

» 2008年06月20日 11時55分 公開
[幾留浩一郎,ITmedia]
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老舗企業とベンチャー

 人間と違い、企業の場合には、歳をとっても強くなる要素もある。例えば「規模」に関しての分析では、90歳や100歳代の高齢企業が最も高いポイントを得ている。平均的寿命なんて関係ないと、しぶとく勝ち残り100年でも発展し続けて企業もある。また企業は、組織改革で再生することも可能である。実際日本の優良企業の中で元気な若い企業とされているものの多くが、NTTドコモやKDDIなど、既存の企業の子会社や再編企業である。

 最近みたNHKの「長寿企業日本」によれば、日本には設立200年を超える企業がなんと3000社以上あるそうだ。まるで仙人のような企業が沢山ある国である。同じ条件で世界を捜すと、米国にはわずか14社しかなく、英国でさえ200社程度で、こんなに沢山の長寿企業がある国は世界にも例がないそうだ。

 世代を超えて企業活動を継続させることは簡単なことではない。まして200年以上といえば、世界大戦や明治維新などの大激動の時代も生き抜いてきているわけで、ただただ、すばらしい。日本人の忍耐強さや柔軟性などの能力が高い証拠で、世界に誇れることだと思う。

 しかしそれでも、全く新しいベンチャー企業が、社会には必要である。なぜなら自己改革に頼った発展は限界があるからである。新しい時代を先取りするには、まず過去の自分の成功を否定する所から始めなければならない場合も多い。

 特に、IT産業などハイテック分野では、技術革新や環境の変化速度が非常に速いために、自己改革だけではスピードが間に合わない。ベンチャーでしかできないことが多い。

 野球チームの場合、元気な新人が入ってこないとそのチームは年々弱体化していく。社会においても同様で、元気なベンチャー企業がどんどん生まれないと強い社会にならないのである。例えば米国の場合には、企業の時価総額ランキングの上位100社の中に、設立30年以内のベンチャー企業が20社ほど入っている。適度に世代交代が進んでいる証拠で、最近の米国の強さの原動力になっている。しかし日本の場合、それが数社しかない。つまり膠着した社会となっている。日本にも戦後には、新しい企業が続々生まれ、その中からSONYやHONDAなど世界的な企業が育った。しかし社会がある程度安定してからは、数十年もの間、新しい企業を作り育てる努力をしてこなかったのである。

任天堂もトヨタも壮年企業

 任天堂(50歳代)やトヨタ(60歳代)のように猛烈に元気なスーパーシニア企業もあるが、日本は年寄り企業が多くなり、総合力では急ぎ足で下降傾向にある。IMD(国際経営開発研究所)が毎年出している国際競争力ランキングを見ると、昨年日本は、55カ国中なんと24位まで落ちている。ほんの一昔前には、当たり前のように毎年、このランキングで1位だった時代があった。ちょうどそれは、日本の今の優良企業の多くが30歳代、40歳代で元気であった時期でもある。日経NEEDSの優良企業の年齢分布(2004年)を見ても、50歳代が697社と突出して多いのに対して、40代が308社、30代が245社、20代が155社、10代以下が110社と、若い企業数が少なくバランスが悪い形になっている。

 最近の10年間で、日本でもでさまざまなベンチャーの促進政策が行われてように思う。しかし、世界と比べると、まだまだ不十分である。

 起業活動は個人戦ではない。起業する人、賛同して一緒に挑戦する人、それを支援する人、いろいろな人が集まりチームとして戦うものである。世界では、新しいチームがどんどん生まれ、活発に戦い、その中から次の時代を作るリーダー企業が育っている。

日本からも参戦するチームをもっと増やす努力が必要ではないだろうか。まずは1人ひとりが「できない」から「できる」へと、考え方を変えてみてはどうだろうか。

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プロフィール

いくどめ・こういちろう AuriQ Systems, Inc. (カリフォルニア州パサデナ) CEO 兼オーリック・システムズ株式会社 社長。リアルタイムWebアクセス解析システム「RTmetrics」の開発元。米国と日本のIT産業において25年のビジネス経験を持つ。


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