サーモグラフィでPCの発熱を測定せよ【前編】計る測る量るスペック調査隊(1/3 ページ)

PCを最大限に活用する方にとってその発熱が悩ましい夏がやってきた。すでにPCの熱対策は準備万端であろうが、PC内でどのように熱が発生し、またどのような対策を取ればよいのかを、あの“サーモグラフィ”をつかって“っぽく“調べてみた。

» 2008年07月18日 01時00分 公開
[ITmedia]

 PCの消費電力上昇に伴い、PCの熱対策も無視できないものとなった。しかし、熱は目に見えないため、PC内でどのように熱が発生し、またどのような対策を取ればよいのか、分かりにくいことが多い。そこで今回の「計る測る量るスペック調査隊」は、温度を視覚化して測定する「サーモグラフィ」を使用して、PCの発熱を調べてみよう。

PCの消費電力は増大している

 近年、PCの性能向上に伴い、その消費電力も急上昇しているのは多くの読者が知るところだろう。例えば、PCが一般に普及し始めたWindows 95発売当時(1995年前後)では、PCの電源としては150〜250ワット程度が一般的だった*。ところが、現在主流の電源は500〜600ワット程度が主流で、1000ワット以上の電源も少なくない。

 このような消費電力増大の要因としては、まずCPU消費電力の増加が挙げられる。例えば、表1はPentiumシリーズにおける消費電力(TDP*)の変遷を示したものだ。いまから約10年前*に発売されたMMX PentiumのTDPは17.0ワットだったのに対し、現在最も電力を消費すると言われているPentium D 960のTDPは130ワットだ。10年でCPUの消費電力は約8倍も増加しているのである。

 また、マザーボードやメモリの消費電力増加も見逃せない。最近のCPUは数百M〜1GHzという高速なバスを備えているため、必然的にCPUに接続されるメモリやチップセットなどの駆動クロックも高いものとなる。メモリやチップセットを構成する半導体素子は一般的に、駆動クロックが上昇すると消費電力も増加するため、マザーボードの消費電力も増大するのである。

CPU TDP
MMX Pentium/233MHz 17.0ワット
Pentium II/450MHz 27.1ワット
Pentium III/1.4GHz 31.2ワット
Pentuim 4/1.4GHz 54.7ワット
Pentium 4 672/3.8GHz 115ワット
Pentium D 960/3.6GHz 130ワット
Core Duo T2700/2.33GHz 31ワット
Core 2 Duo E6700/2.66GHz 65ワット
表1 歴代インテルCPUの消費電力(出典:Processor Spec Finder

 また、HDDや光学ドライブなどの周辺機器についても、CPUほどではないがその消費電力が増加している。とくにDVD±RWドライブでは、高速な読み書きのために強いレーザー出力が必要で、そのために電力消費も増加する傾向がある。つまり、PCは電力消費量を犠牲にして性能を向上させてきたと言っても過言ではないだろう。

 CPUメーカーはこれを黙って看過していたわけではない。例えばインテルは、ノートPC向けに消費電力を低減したモバイル向けPentiumやPentium MといったCPUを発売し、さらには大幅な消費電力の低減に成功したIntel Atomもまもなく市場に送り出そうとしている。また、同社の最新CPUであるCore DuoやCore 2 DuoシリーズではデュアルコアCPUでありながら、Pentium 4以下の消費電力を実現している。

 それでは、なぜPCの消費電力増加は問題なのだろうか? もちろん、電力は有償であり、またノートPCなどの場合ではバッテリにためられる電力に限りがあるため、省電力化はコスト削減や駆動時間の増加に直結する。しかし、問題はそれだけではない。消費電力増加が引き起こすもう1つの問題として、熱問題があるのである。

 PCで消費された電力はいったいどこへ消えるのか、疑問に思ったことはないだろうか。実は、PCで消費された電力はほぼ100%、熱へと変わるのである。つまり、消費電力が大きければ大きいほど、発熱も大きくなるのだ。この発熱が、現代のPCやサーバー環境においては大きな問題となっているのである。

なぜ発熱は問題か?

 それでは、なぜ発熱が問題となるのだろうか。まず1つは、熱による動作異常が挙げられる。半導体は熱によってその電気的特性が変化するため、高温下では想定外の動作が起こる可能性があるのである。例えば、放熱機構の異常やオーバークロックなどによってCPUが異常過熱した場合、システムが不安定化する症状が見られることがあるのはこれが原因だ。

 そしてもう1つは、構成要素の劣化だ。例えば、マザーボード上に多数配置されている電解コンデンサ*は、高温下では劣化が進行することが知られている*

 また、HDD内の磁気ヘッド*も高温下では特性が変化し、一時的にデータの記録/読み出し異常が発生したり、劣化が発生する。実際、HDDの寿命は温度が高いほど短くなる、ということが実験でも証明されている(ただし、温度やアクセス頻度に関係なくHDDは故障するというGoogleの調査結果があることも書き添えておく)。そのほか、DVD-R記録品質の低下や樹脂部品の劣化/変質なども、熱によって引き起こされる可能性がある現象だ。

「熱対策」の効果を調べよう

 このように、発熱はPCの動作や寿命、そして記録データにまで影響を及ぼす、いわばPCの天敵である。そのため、「PCの熱対策グッズ」も数多く存在する。しかし、熱というのは残念ながら人間が直接観察できるものではないため、熱対策を行っても実際に効果があるのか、またどのようにすれば効率的に熱対策が行えるのか、なかなか直感的には理解できない。そこで今回は、物体の表面温度を視覚化することのできる装置「サーモグラフィ」を使用し、PCやそのパーツが発する熱について調査し、熱対策の効果を測定してみよう。

このページで出てきた専門用語

TDP

Thermal Design Power。PCやその周辺機器メーカーが熱設計を行う際に利用される想定値で、CPUが最も発熱している状態で消費する電力の値を表している。ただし、この値は実際の最大消費電力を示すものではなく、またメーカーごとに算出方法が異なることに注意。

いまから約10年前

MMX Pentiumの発表は1997年1月。

電解コンデンサ

円筒状の本体から導線2本が足のように延びている形状の素子。円筒部内には電解液が封入されている。一定量の電力を蓄える働きを持ち、とくに電源回路周りに多く用いられる。

高温下では劣化が進行することが知られている

粗悪な電解コンデンサの場合、高温にさらされるとすぐに破損し、最悪の場合発火することもある。

磁気ヘッド

HDD内の磁性体円盤にデータを記録するためのヘッド。


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