ブレードサーバでグリーン&仮想化

互換性か機能か――ブレードのシャーシを選択する視点規格統一の動きは進まず

サーバ本体として機能するブレードと、それを格納するシャーシ(エンクロージャ)には、各ベンダーの戦略が表れている。

» 2008年08月25日 08時00分 公開
[大神企画,ITmedia]

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仕様を公開したIBMは互換性を重視

 現在のサーバハードウェアは、パーツの汎用化・共通化が進んでいる。特に、19インチ幅の規格化されたラックに収めるように設計されたラックマウント型のサーバは、どのベンダーの製品であっても、機能、性能、サポート体制やコストなど、あらゆる面で大きな差がないのが現状である。

 ところが、ブレードサーバだけはそうではない。そもそもサーバの高集積化を狙ったところから発祥しただけに、標準化された数多くのパーツを採用しながらも、サーバベンダー各社の技術力や製品戦略を如実に表す製品となっている。それでも、エンタープライズシステム向けの本格的なブレードサーバが登場し始めた5〜6年前には、シャーシの規格を統一してブレードの共通化を実現しようという動きはあった。しかし、ブレードだけでなくシャーシの構造を含めて設計しなければ意味はなく、現在はブレードの規格統一といった動きは見られない。

 ただし、シャーシの仕様を公開することで、他のベンダーにブレードを開発、販売してもらい、それによってユーザーの選択肢を広げようという戦略を採っているベンダーもある。その代表がIBMだ。IBMは、現在のブレードサーバ「BladeCenter」を発表する際、その仕様をオープンに公開した。そのため、ブレードの互換性に配慮している。

 IBMは現在、通信事業者向けのいわゆるキャリアグレードから、オフィスの100V電源での駆動を実現したものまで、5種類のシャーシをユーザーの用途に応じて提供している。いくつかの制限事項はあるものの、基本的にどのシャーシにも同じブレードを挿入して使用できる互換性が、IBMの最大の特長になる。

 IBMがブレードサーバ仕様をオープンにしたのは、プロプライエタリな製品戦略で幾度となく失敗を繰り返してきた反省からだ。その結果、他社からもBladeCenter対応ブレードが発売されるなどの成果も上がっている。だが一方で、互換性を保ちながら最新のテクノロジーを提供し続けていくことは、非常に困難な課題でもある。いずれは、他社に比較して「古臭い」アーキテクチャになってしまうだろう。この難題をIBMはどのように解決していくのだろうか。

製品の世代単位で互換性を保証

 IBM以外のベンダーは、仕様を公開することはせず、製品の“世代”を単位として互換性の維持に取り組んでいる。HPのブレードサーバ「BladeSystem c-Class」は、同社第3世代にあたる製品だ。1つ前の世代の「p-Class」は、主にサーバ集約を目的としていたものであり、豊富な種類のブレードを同一のシャーシで使えるという特徴があった。しかし、電源ユニットをシャーシ外部に持っていたり、ケーブリングの取り回しが複雑になってしまったり、ブレードの寸法が大きく集積率が低かったりといった問題を抱えていた。

 これらを解消するために、HPが2006年に発表したのがc-Classである。ブレードの形状は大幅に小型化されるとともに、性能、管理性、省電力などを強化。ストレージやネットワークの統合も実現し、ブレードサーバによるソリューションとして注目される仮想化、自動化を強力に推進するプラットフォームに仕上がったといえる。シャーシは、10Uサイズのラックマウント型、およびタワー型の設置も可能な6Uサイズの2種類が用意されているが、いずれもc-Class共通の豊富なブレードを利用できる。

 一部CPUに制限があるが、一般的な100V電源で導入できるc-Classのシャーシ 一部CPUに制限があるが、一般的な100V電源で導入できるc-Classのシャーシ

 デルは、2008年になってまったく新しいブレードサーバ「PowerEdgeブレードサーバ」に一新した。新しいブレードサーバでは、10Uのサイズに16のサーバブレードを収容できるシャーシを用意。従来のブレードサーバに比較するとシャーシ自体は大型化したものの、その分最大16枚のブレードを格納できるようになって、高集積化が実現されている。デルでは今後しばらく、このアーキテクチャを基本としていく予定だ。

デルの新設計シャーシ デルの新設計シャーシ

ナショナルブランドは“三者三様”

日立のBladeSymphony SPは45dBという“図書館並み”の静音性を果たした 日立のBladeSymphony SPは45dBという“図書館並み”の静音性を果たした

 NECも世代単位でブレードの互換性を維持している。同社のブレードサーバ「SIGMABLADE」では、大規模システムにも対応するシャーシと、100V対応静音電源を搭載したシャーシが用意されており、4ウェイのブレードを除いていずれのシャーシにも同じブレードが搭載できる仕様になっている。

 富士通のブレードサーバ「TRIOLE BladeServer」も互換性を意識しており、モデルが異なってもシャーシとブレードの互換性を可能な限り維持する思想で設計されている。国産ベンダーの中では、富士通が互換性を最も重視したベンダーだといえる。その代わり、ブレードの種類は絞り込まれている。

 唯一、シャーシによって異なるブレードを提供しているのが日立である。日立のブレードサーバ「BladeSymphony」には、ハイエンドモデル「BS1000」、小型高集積モデル「BS320」、中小規模システム向けモデル「BladeSymphony SP」という3つの製品ラインアップが用意されているが、それぞれのモデル間でブレードの互換性はない。各モデルに求められる機能・性能の要件は異なっているため、シャーシやブレードの設計はおのずと異なってくる。あえてモデル間の互換性にこだわる必要はないというのが、日立の考え方だ。ただし、同一モデルの互換性は維持される。

 このように、各ベンダーによって互換性への対応はまちまちである。だが、既存ユーザーの投資に対する保護は忘れていないということだけは、どのベンダーにも共通して言えるだろう。

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