CRMの新潮流

「差別化」に潜む落とし穴戦略プロフェッショナルの心得(1)(2/3 ページ)

» 2008年09月18日 08時00分 公開
[永井孝尚,ITmedia]

 「価格は少々高くてもいいから、手厚くサポートしてほしい」という顧客が、町の電器屋さんのターゲットになります。このように考えていくと「近所に住む、団塊世代の富裕層」はターゲット候補になり得ます。

 例えば、定年を迎えてお金をある程度持っており、数十万円する大画面テレビのようなデジタル家電も購入を検討中。あまり価格には敏感ではないが、複雑になっていくデジタル家電にトラブルが起きた際に、自分では対応できないので、直接家に来てサポートしてほしい、そのような価値を求めている人たちです。

 以上を考慮して、町の電器屋さんのバリュープロポジションを考えると、次のようになります。

  • 【顧客が望んでいる価値】

団塊世代の富裕層が必要としている、手厚いアフターセールスサポート

  • 【他社が提供できない価値】

大量廉価販売重視の家電量販店が提供できない、顧客の自宅まで直接サポートに出向けるフットワークの良さ

  • 【自社が提供できる価値】

複雑になっていく最新のデジタル家電による生活を、顧客が十分に楽しめるように支援できるサポート力

 実際、高齢化が進む住宅地で、徹底した商圏分析と顧客管理を行い、サービスに重点を置いて顧客をサポートすることで、毎年2ケタ成長を続けているメーカー系の販売店があります。この例で分かるように、バリュープロポジションを考える際のポイントは、ターゲットとなる顧客が絞り込まれていて、その顧客が望んでいる価値を理解しており、かつ、競合他社は真似できない自社の価値も把握できていることです。

 バリュープロポジションが明確になっていれば、対象顧客や訴求ポイントが明確に絞れているので、そのままプロモーション戦略やチャネル戦略を展開することが可能です。ここで例として挙げた町の電器屋さんの場合も、このバリュープロポジションを起点に、どのようなプロモーション戦略やチャネル戦略を実行すればいいのか、練習問題として考えてみると面白いでしょう。

 このように、バリュープロポジションの定義は戦略の出発点であるともいえますが、注意すべき点があります。それは、最初から思い込みでバリュープロポジションを決め付けずに注意深く検証すること、さらにいったん定義したバリュープロポジションであっても、常に現時点で有効か検証することです。検証されずに定義されたバリュープロポジションは、現実の顧客のニーズから乖離してしまい、企業の多くの人たちの努力が報われずに終わります。

 特に最近は、市場が短期間で大きく変わります。当初は顧客のニーズに合っていても、市場が大きく変わってしまった場合には、バリュープロポジションの賞味期限は切れてしまいます。このような状況で、数年前のバリュープロポジションのままマーケティングや営業活動を実施しても全く成果が上がらないばかりか、逆に「顧客のことが分かっていない」というネガティブイメージを市場に発信することになりかねません。

 一方で企業は、「これだけ性能や機能が優れた製品なのに、おかしい。努力が足りないせいだ」と考え、さらに努力を重ねることになります。しかし実際には、多くの場合、その優れた性能や機能は顧客にとって大きな意味を持っていないのです。

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