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値引き販売という麻薬戦略プロフェッショナルの心得(4)(3/3 ページ)

» 2008年09月25日 15時30分 公開
[永井孝尚,ITmedia]
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 価格勝負で大きな利益を上げている代表格は、米Wal-Martでしょう。米国Wal-MartはEDLP(エブリディロープライス)戦略を実践しています。一見すると、毎日値引き販売しているように見えます。しかし実は違うのです。Wal-Martの店舗に行ってみると、ほかの店と比較しても格段に安い価格で販売しています。しかし、大量仕入れにより仕入れ価格を下げているので、利益は確保しています。常に最低価格を保証していることで、顧客は、店にいるその瞬間に提示されている価格が将来的に値引きされる可能性が低いことを知っています。お客さんは買い控えをせず、安心して買い物ができます。

 この結果、利益を確保した価格で大量販売することにより、大きな利益を稼いでいます。2007年2月から2008年1月までの1年間のWal-Martの決算報告書を見てみると、資産収益率(ROA)は8.4%です。市場環境が異なるので一概には比較できませんが、日本の大手小売業の資産収益率と比べると、Wal-Martの方がかなり高い数字になっています。つまり、薄利多売ながら大きな利益を生み出しているのです。

 この事例からも、安い価格で売ることと、値引きをすることは、似て非なるものであることが改めて分かります。安く販売するのは戦略ですが、値引きを多発するのは戦略ではないのです。100円ショップがなぜ利益を上げているのかも、同じ考え方で理解すると分かりやすいでしょう。100円ショップは極めて安く商品を販売していますが、常に100円で売っています。値引きは行っていません。

 冒頭で、ソフトバンクモバイルの松本副社長が「価格は政策」と喝破したとおりです。EDLPという戦略を実践するには、高度なローコストオペレーションと、仕入れ原価低減の徹底した努力が必要になります。このためには事業戦略と密接に連携したITの活用が不可欠です。改めて価格戦略はとても重要な事業戦略の1つであることが分かります。

(注) 本書に掲載された内容は筆者である永井孝尚個人の見解であり、必ずしも筆者の勤務先であるIBMの立場、戦略、意見を代表するものではありません。

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著者プロフィール:永井孝尚(ながいたかひさ)

永井孝尚

日本アイ・ビー・エム株式会社ソフトウェア事業部にて、マーケティングマネージャーとして、ソフトウェア事業戦略を担当。グローバル企業の中で、グローバル統合の強みを生かしつつ、いかに日本に根ざしたマーケティング戦略を立てて実践するのか、格闘する日々を送っている。アイティメディア「オルタナティブブログ」の「永井孝尚のMM21」で、企業におけるマーケティング、ビジネススキル、グローバルコミュニケーション、及び個人のライフワークについて執筆中。


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