SGIがOpenGLのライセンスを変更 「フリーソフトウェアコミュニティーへの大きな贈り物」Trend Insight(1/2 ページ)

SGIがOpenGLのライセンスを変更したことは、SunがJavaをフリーソフトウェアとしてリリースしたのと同じくらい大きな出来事である。そもそも何が問題で、それをどのように解決したかという事例として見ても、今回の出来事は参考になる点が多い。

» 2008年09月25日 00時00分 公開
[Bruce Byfield,SourceForge.JP Magazine]
SourceForge.JP Magazine

 9カ月を経て、公然の秘密はついに承認へ――OpenGLコードはSGIが1999年にリリースしたAPIで、以来GNU/Linux上の3Dアクセラレーションを担ってきたが、そのライセンスはFree Software Foundation(FSF)にもOpen Source Initiativeにも認められていなかった。しかし、FSFとSGIの9カ月にわたる交渉の結果、2008年9月19日、問題のSGI Free License BGLX Public Licenseの改訂が発表された。これにより、問題は解消される。FSFは、このコードの寄与をコミュニティーに対する私企業の寄与として最大級のものと位置付けている。

 OpenGLは3Dアクセラレーションを支えている仕様だ。MesaX.orgにもOpenGLの実装が使われており、これがなければフリー・オペレーティング・システムのグラフィックスは2Dに限定されることになる。電子メールやオフィスツールならそれでもいいだろうが、ウインドウマネージャ、多くのゲーム、アニメーション、高水準のグラフィックスなど、要するに今日のコンピュータで当然と思われていることの多くはOpenGLの実装を必要としている。

 ライセンス問題は数年前から公然の秘密になっており、2003年にはDebianバグ報告に問題の一端が報告されていた。しかし、エグゼクティブディレクターのピーター・ブラウンによると、今年1月にOpenBSDの利用者がFSFに問題を報告するまで、ほとんど何の動きもなかったという。この報告以来、フリーではないソフトウェアの完全排除を目標とするgNewSenseディストリビューションはOpenGL関連ファイルを削除している。

 SGIでLinuxエンジニアリングのディレクターを務めるスティーブ・ノイナーによると「SGIはしばらく前にこの問題に気づき、コミュニティーとの接触を続けてきた」という。しかし、公式の発表は何も行われなかった。これについてブラウン氏は「われわれとしてはこの問題に注意を引きたくなかったのだ。SGIに圧力をかけるのではなく、協力してもらいたかった」と説明する。

 そして、さもなければ「コミュニティーが緊張」するだけでなく、「このコードを置き換えるために莫大な時間とエネルギーと資源を投じる必要があった。われわれは必要な資金の見積もりに着手したが、率直に言ってそれは恐ろしいほどの額になった。だからこそ、SGIとの話し合いにこれまでの長い時間をかけたのだ。まったく、驚くほどの巨額だった」

 しかし、こうした状況下で問題の表面化を阻止するのは困難だ。FSFのコンプライアンスエンジニアのブレット・スミスは次のように述べている。「ライセンスの変更を求めるためにみんなで怒りのファックスをSGIに送ろうかとIRCで聞かれたことがある。わたしは『いや、今はそのときではない』と応じた。われわれはこうした反応を阻止しようとしていたのだ。というのは、gNewSenseコミュニティーの中に当初直情的な反応があり、SGIに猶予を与える必要があることを理解してもらうのに手間取っていたからだ。それが功を奏して、SGIは全交渉を通じて快く協力してくれた」

 問題を知らされたFSFはSGIに接触した。ブラウン氏によると、SGIの反応は当初鈍かったという。SGIにとっては、OpenGLコードもそのライセンスも優先事項ではなかったからだ。しかし、SGIはFSFの申し入れに好意的に耳を傾け、すぐに全面的に協力するようになった。

 「SGIは、交渉中常に友好的だった。これは第一に教育の問題であり、次に共同で最善の解決策を探すという問題だった」とブラウン氏は強調している。

問題点

 スミス氏によると、SGI Free License BとGLX Public Licenseには「細かな違いはあるが、よく似て」おり、フリーソフトウェアとオープンソースのどちらから見ても主な問題点が3つあったという。

 第1の問題は、SGI Free License B第6節とGLX Public License第7節が何らかの知的財産権に抵触するコードの配布を禁じていることだ。「問題は、現状の特許制度、とりわけ米国の特許制度の下では、誰の特許も侵害しないことを確信できないコードを配布するのがきわめて困難だということにある。その場合ソフトウェアをまったく配布できなければ、この条項が広範かつ厳しく禁じているため、そのコードを配布する利用者の権利を大きく制限してしまうと考えられた」

 第2の問題も、SGI Free License B第6節とGLX Public License第7節に由来する。どちらのライセンスも、コードの配布者に輸出関連法に従うことを求めているが、スミス氏によると、ライセンスで違法を許容できないのはもちろんのこと、この文言では利用者に二重の危険性を強いることになるという。輸出関連法に抵触するとOpenGL関連ソフトウェアの配布権も失うことになるからだ。「利用者に何らかの法律違反があったとしても、それは政府の管轄であり必要なら訴追されるだろう。それについて、ソフトウェアライセンスがとやかく言うべきではない」

 第3の問題は、SGI Free License B第7節とGLX Public License第8節が、このライセンスの下でのコードのリリースに知的財産侵害の恐れがあることを利用者が知った場合、配布者に通知することを求めている点だ。スミス氏によると、利用者は守秘可能な情報の開示を強制される恐れがあるという。例えば、ソフトウェアを弁護士にチェックしてもらい特許侵害の恐れがあることが分かった場合、守秘する法的権利を放棄しなければならない。

 ブラウン氏によると、どちらのライセンスについても「結果的には失敗したが、フリーソフトウェアライセンスにしようとしたことは明らかだった」。そこで、FSFはフリーソフトウェアでOpenGL関連ソフトウェアを使えるようにするため、SGIが本来の趣旨を達成できるように支援した。

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