世帯から個人へ、ブロードバンドサービスは次の成長期にアナリストの視点(1/3 ページ)

ついにDSLをFTTHが上回った。矢野経済研究所のアナリストが、立ち上がりつつあるワイヤレスブロードバンドの影響、そして今後のブローバンドサービスについてコンシューマー市場の動向を中心に展望する。

» 2008年10月06日 10時24分 公開
[朴澤理子(矢野経済研究所),ITmedia]

 総務省の統計によると、2008年6月末時点でFTTHの契約数は1308万、DSLは1229万となり、ついにDSLをFTTH(光ファイバーによる家庭向けデータ通信サービス)が上回った。ブロードバンドを牽引するFTTH市場の概況、立ち上がりつつあるワイヤレスブロードバンドの影響、そして今後のブローバンドサービスについてコンシューマー市場の動向を中心に展望する。

ユーザーターゲットを拡大させるFTTH「ADSL→未利用世帯」

 FTTHは、2004年頃から普及してきた。FTTHの年間純増数の推移は、2004年度145万、2005年度256万、2006年度334万、2007年度336万というペースである。一方、DSLの年間の純増数は、2004年度248万、2005年度84万、2006年度50万減、2007年度130万減である。FTTHは、DSLの利用者を巻き取る形で、加入者を伸ばしていることが分かる。

アクセス種別ブロードバンド純増数の推移予測

 FTTHが普及するきっかけとなったのは、光IP電話の登場である。光IP電話は、050番号ではなく通常の固定電話と同じ0AB〜J番号で利用ができるIP電話だ。FTTH事業者は、DSLユーザーをメインターゲットに「FTTH+光IP電話」に加入すれば「ADSL+NTT固定電話」の場合よりも、「安価に」「高速な」ブロードバンドサービスが利用できるという点を強力にアピールした。このプロモーションは大当たりで、ADSLユーザーからFTTHへの切替えが大いに進むことになった。

 しかし、2007年度に入ってから、それまで右肩上がりだったFTTHの純増ペースがやや鈍化しはじめている。要因として1つ考えられるのは、ADSL契約者のうち、ある程度速度や新しいサービスに敏感な「切替え検討層」の巻取りが一段落した、という点である。速度でADSLを大いに上回るFTTHであるが、すべての利用者が、VOD、P2P、オンラインゲームなど広帯域を必要とするサービスを利用するわけではない。「自宅では、PCでニュースやSNSなど、ちょっとインターネットを使う程度」という利用者はまだまだ多い。「別にケーブルテレビやADSLの速度で十分だから」――。そうした「現状満足層」には、速度や価格面の優位をアピールしても、なかなか響きにくい。

 また、現状満足層には「インターネットなんてなくてもいいし……」というインターネット未利用層も含まれる。このような、いわばターゲット層の変化がFTTHの純増ペースにも影響していると考える。

 実際、「最近は、ADSLからの切り替えより、インターネット未利用世帯からの加入が増加してきており、加入検討から契約決定に至るまで時間がかかるようになってきている」と話すFTTH事業者も少なくない。そこで、FTTH事業者は、新規申し込み時の出張設定や、セキュリティーサービスの強化、家電量販店での体験コーナーの増設などに取り組み、現状満足層、特にインターネットリテラシーの低い層を対象に、ユーザーターゲットを拡大した訴求に力を入れてきている。

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