基幹システムはエッシャーの「滝」のように作れIT Oasis(1/2 ページ)

後戻りできない状態になってから初めてテスト画面を見せられても、エンドユーザーは満足のいくIT活用ができない。外部設計段階では必要に応じてプロトタイプ画面を確認できる作り方が適している。

» 2008年11月05日 10時32分 公開
[齋藤順一,ITmedia]

ウォーターフォール・モデル

 エッシャーという「だまし絵」の大家がいる。彼の作品に「滝」というのがある。塔の上から流れ落ちる滝の流れを追っていくと、水路を流れて、いつの間にか塔の上に辿りつき再び滝となって流れ落ちるという永遠に流れ続ける滝を描いたものだ。

 実際の滝はどうか。ナイアガラ瀑布といえばアメリカとカナダの国境にある雄大な滝で観光名所である。自然の形などそうそう変わらないように思えるが、浸食によって毎年1メートルずつ後退しているそうである。

 ソフトウェアの世界にも「ウォーターフォール・モデル」という滝がある。

 さて、この滝は無限に流れ続けることが可能なのだろうか。

 ITベンダーによって工程の流れや呼称に差はあるが、「要件定義」「外部設計」「内部設計」「テスト」「運用」のような順に作業が進められ、前工程の成果物が後工程の要件となり、前工程への後戻りがなく、各作業が並列に行われることもないという完全押し出し流れが原則である。

 この仕組みは1970年代に確立されたと考えられるが、多くのITベンダーで現在も標準的に使われている。その理由はいくつかあるだろうが大規模システムの開発に威力を示すことが挙げられる。他の理由として、組織として管理しやすいというのが大きな要因だろう。

 各工程を分離独立させ、前工程の影響しか受けないということにしておけば、組織の要件である分業が成立し、課業への落とし込みも容易になる。プロジェクトチームを組む時も、各工程のメンバーを適宜ピックアップすることで編成ができるし、並列作業もないので工程管理も容易である。

 ウォーターフォール・モデルはITベンダーにとって便利な仕組みであるが、これが顧客にとってもよい仕組みかといと、そういうことにはならない。

見えない投資

 物品やサービスなどの財の提供においては、通常、顧客は現物や図面を見て確認し、あるいは同様のサービス内容を確認することで、事前にこれらの価値を判断することが可能である。これによりリスクとリターンを評価することができ、投資判断をすることができる。

 これに対してITは形がなく、ITを表現する共通の言語もない。顧客に対応した固有のサービスのため先例が参考にならないケースが大部分である。その上、ウォーターフォール・モデルは顧客がITサービスを具体的に認識できるのは「テスト」段階になってからであり、この時点で意思の食い違いが露呈しても後戻りできないことが多い。

 ITが目に見えないことが、他の設備投資に比べてIT投資を決断しにくい理由の1つになっている。

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