SaaS型がシェア50%超え目前 2009年には自社運用型を上回るアナリストの視点(3/4 ページ)

» 2008年11月07日 08時00分 公開
[忌部佳史(矢野経済研究所),ITmedia]

SaaSを支える背景

 なぜこれほどまでにCRM市場でSaaSが成長しているのだろうか。単に「流行」と切り捨てるのは簡単であるが、当社ではそうではないと考えている。端的に言えば、その背景にはCRM市場の単価下落と案件小型化という事情がある。話題性といった側面もあるだろうが、ユーザーは話題性だけで導入するほど単純でも短絡的でもない。

 SaaS成長の背景を検討する視点はいくつかあるだろうが、ここではCRM市場の動向という側面から考えてみたい。

出典:『2008 CRM市場の実態と展望』(矢野経済研究所)
  • 案件の小型化

 案件小型化の要因は、まず、コールセンター/コンタクトセンターにおける大型案件の減少がある。景気動向が影響している面もあるが、詳細は省くが、コールセンター需要の循環的・構造的な理由によって減少局面にあるといえるだろう。また、製造業などで小規模コールセンターを構築するといった事例も増えてきており、小・中規模案件が相対的に増加傾向にあるといえよう。

 次に、オンデマンド型の普及も案件小型化をいざなう重要要因になっている。それは、ひとつは中堅・中小企業への広がりであり、もうひとつは大企業の部署単独導入である。中堅・中小企業への導入は想像がつくだろうが、月額料金制のSaaS/ASPは、ユーザー企業の営業部署の執行範囲で契約できるケースも多いことから、大企業でもユーザー部門単独での導入が増加傾向にある。いってみれば契約形態を小口化したことにより、潜在需要(=新市場)の発掘に成功したといえ、その結果、相対的に市場には小型案件が増加していることになる。

  • 単価の下落

 単価下落という側面でも、SaaSベンダーの登場、すなわちSalesforce.comの躍進が大きい。Salesforce.comの活躍は、他ベンダーのオンデマンドモデルへの参入を誘い、結果的に市場全体に価格競争を促す環境をもたらした。このインパクトは大きいものがあった。

 しかし、それ以上に注意すべきは「汎用化」である。現在、CRMソリューションに含まれる個々の機能は汎用化し、機能面で差別化を図るのは困難な状況となっている。もちろん、ベンダーごとに特徴や得意分野は存在するのだが、SFA、マーケティングといった諸機能だけを取り出すと、際立った製品というものが少ない。これは、ある程度、機能が汎用化した結果ということである。汎用化によりソフトウェアに差別化要因が少なくなれば、どうしても価格競争へと流れることになる。

 汎用化が進むということは、CRMのノウハウが特別なものではなくなるということでもあるため、スクラッチ開発にも価格圧力がかかってくることになる。元来CRMはスクラッチの強い市場であった。パッケージはなかなかそこを切り崩せずにいたわけだが、そうこうしている間にオンデマンドモデルが台頭してきた、と見ることもできるだろう。

 このように、CRM市場ではビジネスの単位が小粒になってきており、オンデマンド型の方が現在のユーザーニーズに合致しているといえるだろう。

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