金融危機とIT経営(2)伴大作の木漏れ日(1/3 ページ)

経済産業省は6月「IT経営協議会」という組織を立ち上げた。同省商務情報政策局情報処理調査官平井氏に今後の方針について聞いた。「ユーザーの二極化」についてのわたしの見解について、企業のIT投資規模が欧米の企業と比して小さいことなどの現状を説明してくれた。

» 2008年11月17日 15時07分 公開
[伴大作(ICTジャーナリスト),ITmedia]

 前回に続き、金融危機とIT経営についての2回目をお届けします。

 経済産業省は今年6月に「IT経営協議会」という組織を立ち上げた。担当の同省商務情報政策局 情報処理調査官平井氏に今後の方針について聞く機会を与えられたので、組織した目的を質問をした。

行政の危機感

 平井氏は「ユーザーの二極化」についてのわたしの見解について、企業のIT投資規模が欧米の企業と比して小さいこと、加えて、欧米との格差が拡大しつつある現状を説明してくれた。また、大手企業ユーザーを「IT経営度」という指標で4つに分類し、それぞれのステージにある企業の割合を説明してくれた。

 それによると、「情報システムが導入されている」という初歩的な段階にある企業を最初のステージとした上で、これに分類される企業が全体の15%。次いでステージ2は「部門内で情報が“見える化”されている企業」で59%、ステージ3の「組織全体で情報が“共有化”されている段階にある企業」は22%、最終的なステージとして「ステークホールダーすべてが最適化されたデータを共有できる」ステージ4にある企業群はわずか4.5%にすぎないことを明らかにした。

 今後の方針として、あくまで行政の立場から全体の底上げを目指すとし、それに到達する手段として幾つかの施策を「IT経営ロードマップ」として説明してくれた。

 さらに今後の取り組みとして、IT経営ロードマップに従い、教育などの幾つかの対策を示し、役所という立場上全体の底上げを目指すことを明らかにした。わたしはこの行政の取り組みに対し、ちょっと違和感を覚えた。仕事柄、何人ものCIOと呼ばれる人達と会ってきた。その中には、日本企業以外の米国のCIOも含まれている。

 その経験から感じるのはCIOとして優秀だという定評を受けている人達は概して個性豊かだということだ。才能に恵まれていることは言うまでもない。

 そのような人達を生み出す教育とは一体全体どうすれば可能なのだろうか。まさか、ゆとり教育とはいうまい。そのほかSFC方式、さまざまな教育法が頭の中をよぎる。果たして、個性豊かで独創的、才能豊かな人材を生み出す教育等可能なのだろうか。

結局は経営風土

 最初の伴式情報システム評価五原則に話を戻す。情報システムを取り巻く外的要因と情報システム内部の要因が評価を下す上で大きな影響を及ぼすと書いたが、中でも、最も大きな影響を与えるのは経営サイドだというには異論を挟む余地がないだろう。

 事実、わたしの経験からも優秀な情報システム部門およびリーダーを抱える企業のトップはITCに関心が高い傾向があった。

 これは予算を潤沢に与えているという意味では決してない。むしろ、IT予算には厳しい傾向が強かった。その代わり、ITCを少し高い位置から概観し、外部の専門家などの意見も参考にして、情報システム部門のリーダーから内情を聞き、正しい指示を下したり、判断を行っている場合が多かった。

 経営者の中には、世間の一般常識からはかけ離れた指示を下した例さえある。大規模小売業のイオン(当時のジャスコ)はインタビューで、情報システム部門の人員を現在の半分にすることを目標に掲げていると語った。できる限り既存システムへの運用関連の予算を節約し、戦略的な投資に振り向けたいと抱負を語った。

 その時に経営者の情報システムへの対応はどうかというわたしの質問に対し、「会長も社長もIT好きですから、大体想像できるでしょう」との回答が返ってきた。その後、同社への聞き取り調査は続いたが、店舗数の増加、海外事業の買収などで情報システム部門がお守りをするシステムは巨大化しているはずなのに、人員は順調に削減し、5年後には当初彼らがわたしに語った目標を達成した。「好きこそモノの上手なれ」だろうか。

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