メールのログ解析で社員の「心の病」を未然に防げSFC ORF2008 Pre Report

「世間を騒がせるさまざまな医療問題は、医療現場でのコミュニケーションによって解決できる」と話すのは、「慶應義塾大学SFC Open Research Forum 2008」に登場する慶應義塾大学総合政策学部の秋山美紀専任講師。電子メールのログ解析で従業員の精神の不調にいち早く会社が気付くツールなどの研究成果を発表する。

» 2008年11月20日 12時40分 公開
[杉浦知子,ITmedia]
「医者同士だけでなく医者と看護師、医者と患者、患者同士など、医療にかかわる人すべてのコミュニケーションを円滑にできれば社会問題となっている医療問題は解決できるだろう」と話す秋山美紀氏

 妊婦の緊急搬送受け入れ拒否問題や地方病院からの医師の引き上げ、医療ミスなど、さまざまな医療問題が世間を騒がせている。こうした社会問題は「医療現場でのコミュニケーションと情報共有を円滑に進めることで解決できるだろう」と話すのは、慶應義塾大学総合政策学部の専任講師、秋山美紀氏だ。同氏の研究室では、うつ病患者のコミュニティー支援や医者と患者をつなぐSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)といった、医療やヘルスケアにおけるコミュニケーションを研究している。

 秋山氏は「ヘルスケア×コミュニケーション」を題材にした研究の成果を11月21、22日に慶應義塾大学SFC研究所が主催するイベント「慶應義塾大学SFC Open Research Forum 2008(ORF2008)」で展示する。ORF2008は、SFC研究所での研究の成果を一般向けに公開するイベントで、今年で13回目を迎える。秋山氏のブースでは、電子メールのログ解析から従業員の精神状態を把握する仕組みと、小児医療でのインフォームドコンセント(説明と同意)を支援するツールの研究を展示する。

 「従業員の精神の病気に会社が気付き、ケアをする仕組み」と秋山氏が位置付けるツールは、会社に蓄積された電子メールのログを解析して、返信率や返信のタイミングを集計し、リポートとして抽出するもの。小規模な会社のITプログラマーやエンジニアを対象としたもので、会社と従業員間のコミュニケーションを活性化する医療ツールだ。研究で使用した小規模な会社のプログラマーのモデルデータから、メールの返信率や開封率が極端に低い時期は、体調や精神状態が不安定なことが多いといった結果が出ているという。このようなデータを可視化することで、従業員のメンタルヘルスの問題に会社が気付き、問題になる前に休暇を取ってもらうなどの適切な対応ができる。

 小児医療においてインフォームドコンセントを支援するツールは、絵本や人形といったものがある。子どもに絵や模型を使って、治療方法を図解で理解しやすく説明するもので、「プレパレーションツール」と呼ばれる。「米国ではインフォームドコンセントの専門スタッフが多数いるため、両親や子どもへの説明責任が浸透している。日本ではまだまだ考え方が根付いておらず、親と医師の判断で治療がなされている」と秋山氏は指摘する。ORF2008では、米国の病院で実際に小児医療のインフォームドコンセント研修を受けた学生が、その経験を生かした研究成果を展示する。

 「情報共有するために医療情報をネットワーク化するEHR(エレクトロニックヘルスレコード)など、医療のIT化には解決しなければならない問題がたくさんある。何もかもIT化するのが良いわけではない。人と人をつなぐツールとして医療現場でITを活用すべきだ」と秋山氏は述べ、ITをあくまでもコミュニケーションを支えるツールと位置付ける見解を示した。妊婦と病院、救急隊員の間でコミュニケーションを円滑にできるツールがあれば、妊婦の緊急搬送受け入れ拒否を未然に防ぐ手助けとなり、患者・医者とも安全な治療ができるようになる。「まずは身近で気付く範囲からコミュニケーションの改善ができないかと考えてほしい」と秋山氏は呼びかけた。

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