ERPが日本で利用され始めて10年以上経ち、「あるべきもの」という地位は既に確立したが、ユーザー企業の課題やニーズは時を追って変化している。矢野経済研究所が2008年9月に行ったユーザー調査から、ERPの導入実態を紹介する。
ERPが日本で利用され始めて10年以上経ち、「あるべきもの」という地位は既に確立したが、ユーザー企業の課題やニーズは時を追って変化している。2008年9月に行ったユーザー調査から、ERPの導入実態を紹介する。
全体に対するERPの導入率は39%という結果となった。大企業から中小企業へ、製造業からサービス業や流通業へ、ERP導入の裾野は広がっている。しかし経済危機は世界規模で深刻化しており、好景気がIT投資意欲を刺激した2007年までとは潮目が変わったといわざるを得ない。今回の調査では、58%の企業が「2009年〜2010年に基幹システムへの投資計画がある」と回答しているものの、2009年にかけては急激な経営環境の変化による投資予算凍結などが予想される。
それでも、長いスパンでみれば、レガシーシステムをリプレースする動きは続いているため、導入率はまだ伸びる余地があると考える。ERP導入の最大の理由は、企業規模や業種を問わず「システム老朽化対策」である。約半数の企業が10年以上前に導入した基幹システムを使い続けており、オフコンシステムをオープン系に移行するニーズも根強い。業務改革などの戦略的な理由のみではなく、サポート終了やシステム管理者が定年退職するといった理由で基幹システム更新の検討を始めるケースもある。
ERP導入実態を見る場合、新規導入での導入率の動向が注目されがちだが、今後は既存ユーザーの存在感が高まっていくだろう。「今後ERPに投資する予定がある」と回答した企業のうち65%が、既にERPを導入済みで、追加投資の段階にある。ERPに対する意識が成熟した既存ユーザーが、財務会計・人事給与以外にも適用範囲を拡大する動きが起きており、2009年に最も投資意欲が高い分野は販売管理システムとなった。
ただし、成功事例のみではなく、不満足に終わったERP導入の軌道修正を目論む企業が出てきていることも見逃せない。19%の企業が別パッケージへの移行を検討しているのである。一部には「結局自社開発のほうが費用対効果の面で良いと分かった」といった自社開発回帰もみられる。
業種や企業規模にもよるが、例えばERPへの取り組みが先行した組立製造業では、導入から10年近く経つという企業は多い。基幹システムの耐用年数が10数年と考えれば、そろそろ次の一手を考える時期に差し掛かっているだろう。しかし昨今の経済環境の中で、ユーザーの選択眼は一層シビアになる。したがって、パッケージベンダーは、他社製品からの乗り換えというチャンスと、自社製品離れというリスクの双方を背負っていることになる。
ユーザー企業の回答からは多くの課題や悩みが伺え、必ずしも順調にERP導入を進めているわけではない。例えば、やはりERP導入はユーザー企業にとって大きな負担であり、検討開始から本稼働までの期間は平均21カ月かかっている。また、導入費用については、予算をオーバーしたという回答が43%もある。
導入に当たっての課題としては、ベンダーの能力不足より自社の力不足のほうが上位に挙がっている。ユーザー企業の能力不足は、要件定義がスムーズに行えない、費用やスケジュールの管理が難航するなどほかの課題とのマイナスの連鎖も起きる。ERP導入のメリットを享受するためには、自社業務の本質を理解し、ERP導入効果を正しく評価する対応力が必要となる。しかし、導入効果の事前検討を行ったか、という質問に対しては、「あまり検討していなかった」企業が27%、「全く検討していなかった」企業が12%で、ERP導入に掛かる労力と費用を考えれば準備不足のように見受けられる。
このことからも、ユーザー企業自身もERPへの対応力を付けてプロジェクトに臨まなくてはならないといえる。
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