ユーザー企業におけるERP導入の実態と課題アナリストの視点(2/2 ページ)

» 2008年12月04日 08時00分 公開
[小林明子(矢野経済研究所),ITmedia]
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シングルインスタンスは現実解ではなかったのか

図3 ERP導入効果の事前検討状況

 利用しているERPパッケージのトップ5ベンダーをみると、SAPジャパン、富士通、オービック、日本オラクル、エス・エス・ジェイと、ブランド力や実績のあるベンダーが並ぶ。しかしここでは、利用しているERPパッケージという質問に対して複数の製品を挙げた企業が34%もあったことに注目してみる。販売管理や生産管理システムとして他メーカーの製品を組み合わせるといったパターンのみならず、会計と人事であっても別製品という回答も散見された。

 会計システムのみなど、いわば断片的に利用している企業が多いのも事実だが、「統合業務管理パッケージ」としてみても、一枚岩の基幹システムとして利用されているわけではない。ERPが登場した当時はシングルインスタンスが理想形といわれたが、現実には実現が困難だったことを示している。

 それはつまり、ユーザー企業の業務はそれほど単純ではなかったということなのかもしれない。実際、現在はほとんどのパッケージベンダーが、適材適所で製品を選び、システム連携によってERPとして活用してほしいという提案を主体としている。ユーザー企業においても、今後も、現場の業務に合ったシステムをボトムアップで検討していくスタイルが多数派を占めることになりそうだ。

 だがそれは「部分最適で十分だ」という意味ではない。業務間、拠点間の情報連携による最適化や見える化の実現、ITガバナンスの強化などのニーズはいっそう高まっており、情報連携の動きは活発である。近年、徐々にSOAの技術を使ったシステム構築・システム連携が進められている背景にも、複数システムを利用しながらERPによる全体最適へのアプローチを目指すユーザー企業のニーズがある。

自社業務への適合性を重視、カスタマイズ志向強い

 ERPのベストプラクティスに業務を合わせるべきである、という話はもう聞かなくなったが、ユーザーが実感しているERPの導入効果のトップは「業務の標準化」で、パッケージがBPRを手助けしていることは間違いない。しかし、自社独自の業務プロセスに適合させるために多くの企業がカスタマイズを選択している。メディアなどからは絶えず「カスタマイズは最小限にすべき」というメッセージが発せられているが、現実的には、異なる製品間の連携を含め、カスタマイズのニーズは高まる方向性のようである。ERPパッケージを選ぶ基準としても、「カスタマイズの柔軟性」が上位に挙がっている。

 問題は、カスタマイズがERPに対する不満につながっていることだ。ユーザーのコメントでも、「カスタマイズをした結果パッケージの原型がなくなった」「ベンダーは提案時にカスタマイズは最小限で済むと言っていたが、プロジェクトがスタートした後に膨大になった」など、カスタマイズにまつわるトラブルは多い。

 不況によってIT予算が縮小する中、最大限の効果を得るためには、無駄のない投資を目指さなくてはならない。しかしパッケージとカスタマイズの境界線を見極められなくては、ユーザー企業の不満は解消されない。ユーザー企業がERPに投資する際には、パッケージのみならずベンダーを吟味する必要性が高まるだろう。特に、無闇に案件規模を拡大させていないか、最適なシステム構築方法を提案できるか、などの点が今後ベンダーの力量が問われる部分になるといえよう。

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