組織改革には、まずは小ぢんまりとまとまろうとするチームに波風を立たせることから始める。リーダーはニコニコ顔を隠して、扇動者、挑発者を演じる覚悟を決めよう。
今回は『組織改革の仕掛け人』としてのリーダーシップ・コミュニケーションの第2回目、「扇動者」としてのリーダーの役割とそのコミュニケーション手法についてみてみよう。
扇動者とはあまり聞こえの良からぬ言葉だが、それは組織の中は平穏であってほしいし、余計なことは言われたくない。粛々と役割をこなしていたいとわれわれが抱く自然な感情の裏返しであろう。そうした感情は、組織がスムーズに動いて生産的であったほうがよいし、いやな気持ちを抱かずに毎日を楽しく送りたいという気持ちから出てくる。
しかしこうした気持ちは一歩間違うと、仲良しクラブ、縄張り意識、見て見ぬふり、ぬるま湯、マンネリ、内向き志向(お客様志向の反対)、ひらめ行動(上司の顔ばかり見る)などに転落しかねない。小ぢんまりとみなが粒状になって組織の中にばらばらに存在する「つぶつぶ現象」につながる。
社員同士が相互に切磋琢磨したり、クロスファンクションで課題を大きく設定したり、知らないことを積極的に学んだり、全社的な観点で発言したりといった、大きな当事者意識の欠落だ。
それゆえ、居心地の良さを犠牲にしてでも組織に揺らぎや波風を起こし、刺激を与え、安住する社員を挑発する役割が必要になってくる。それは上位者の権限からしても妥当な戦術なのだが、一般的には、ニコニコ顔の上司が多い。誰も恨まれたくないし、嫌な役は引き受けたくない。しかし、だからこそこういう役を上司がやらなくては誰もやらないわけだ。しかしだからといってリーダーが本質的に嫌なやつであるわけでは決してない。そういう役割を演じきるわけだ。コミュニケーションのルールにのっとって、扇動者あるいは挑発者の役者になることが必要だ。
扇動者がやるコミュニケーションの真骨頂は、経営計画の立案、目標の設定における常識を疑う質問や論理的な挑戦だ。そうした質問や問いかけによって、各部門や部下たちがどこまで真剣に考えているのか、すなわち、
などをチェックする。
平たく言えば、「楽な道」をとっていないかということだ。そういう目標設定プロセスを明確に持ち、リーダーが扇動者として、部下を「叩く」のが文化になっている代表選手が、GEやエマソンなどだ。GEでは、目標設定の際には次のような前提や問いかけがなされるという。
まさに扇動者だ! 一見厳しいようにも見えるが、普通の会社ではどうだろうか。
これと比較すると、やはりどちらが強くなれるかは歴然だ。厳しい環境においてこそ、組織も人も成長することができる。トヨタの「なぜなぜ5回」という問いかけの手法(真の原因を追究するために、「なぜ」を5回繰り返していく)も扇動者の手法だ。
しかし、あまりに厳しい問いかけは人を問い詰め、追い込んでしまい、組織の雰囲気を暗くしかねない。そのため、このような厳しい扇動者の役がリーダーの中で定着している企業では、一方でルールの明確化や社員をつなぐ場の設定にも余念がない。ルールとしては黄金律が2つある。
(1)個人攻撃をしてはならない。
(2)議論は具体的な行動の提案につながるように行われ、参加者はみなポジティブな提案に行き着くよう努力しなくてはならない。
この2点が厳しい場であっても共通のベクトルと目的意識を生み、不毛な論争になることを避ける。また、嫌なことを言われる側がやはりリーダーに個人的で人間的な親しみを持っていないと、気持ちを切り替えるのは難しい。そのため、研修や普段のつきあいなど多くの場で、扇動者役を担うリーダー自らが自分を直接知ってもらい、親近感を抱いてもらう日常のコミュニケーションや場づくりが欠かせない。普段からの飲みの場も今の時代にこそ意外に重要なわけだ。
とくおか・こういちろう 日産自動車にて人事部門各部署を歴任。欧州日産出向。オックスフォード大学留学。1999年より、コミュニケーションコンサルティングで世界最大手の米フライシュマン・ヒラードの日本法人であるフライシュマン・ヒラード・ジャパンに勤務。コミュニケーション、人事コンサルティング、職場活性化などに従事。多摩大学知識リーダーシップ綜合研究所教授。著書に「人事異動」(新潮社)、「チームコーチングの技術」(ダイヤモンド社)、「シャドーワーク」(一條和生との共著、東洋経済新報社)など。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.