「いまこそ組織改革を」という声をよく聞くが、どんな小さな組織でも、改革は簡単ではない。組織にはとてつもない力を持ったイナーシャ(慣性)が働いているからだ。
いよいよ、このリーダーシップ・コミュニケーションのシリーズのパート3を始めたい。それは、『組織改革の仕掛け人』としてのリーダーシップ・コミュニケーション手法だ。このテーマには4つの役割がある。それは、「批評者」、「扇動者」、「学習推進者」、「イノベーション・コーチ」だ。
なぜそれらが必要なのだろうか。それは、組織にはとてつもないイナーシャ(慣性)が働いているからだ。会社や自分に成功をもたらし、今を築くまでになった組織の知恵やスキル、コアコンピタンス、今までのやり方をわれわれは疑おうとはしない。勝ちパターンこそが、われわれの強みだからだ。しかし、ブルーオーシャン戦略で指摘されるまでもなく、われわれは常に足元をすくわれる危機に日々直面している。が一方で、危機が顕在化するまで気に留めない傾向がある。そしてさらに悪いことに危機が顕在化しても、それに瞬時に対応するよりも、現実を直視できずにズルズルと引きずって傷口をひろげてしまう。それが強烈な大型タンカーのようなイナーシャだ。
このような危険性に絶えず直面している組織に対して、リーダーたちは、状況変化を察知し、訴え、気づかせ、タンカーを方向転換させなくてはならない。トヨタは世界一流の企業であるが、世界の中でも最も危機感を持っている企業であるとも言われる。今回の不況で大きな痛手を受けたトヨタだが、やはりそれに対する対応もダイナミックで迅速だ。リーダーが常に組織改革の仕掛け人として、コミュニケートし、文化を作り上げてきた結果だ。そして、このことは今の成果を上げるのに専念してくれている現場ではなく、一歩先を見て舵を切るリーダーの役割にほかならない。今回はその中でも、「批評者」の役割を取り上げたい。
批評者とは、現状を冷静に観察し、本当にこのままでいいのか、今のやり方がベストなのかを常に自分にも、周囲にも問いただす役割を実行しているリーダーだ。一般にわれわれは、組織から支持されたスキルを身につけ、提示された業務分担や決められた目標、やり方、マニュアルに沿って仕事を行う。いかにうまくやるかが関心の的になり、なぜそうなのかは問わないし、問うても無駄なことだ、と思う。
組織はきちんと合理的に考え設計されているし、そうやって勝ってきたからだ。しかし、もし本当に合理的に考えているのならば、世の中が変化してもなぜそのやり方や考えが変わらなくてもいいのか。不思議ではないだろうか? つまりわれわれは合理的に判断して、行動しているとは限らないわけだ。自分は合理的だと思いたいだけなのだ。そしてそれを正当化してしまう。
次のような例を経験したことはないだろうか? 自分の乗っている馬が死に馬だと分かったら、さっさと下りるのが正解なのに、乗り続けてはいないだろうか?
などなど。われわれは現状維持のためには、現実を直視しないあらゆる知恵を動員するものだ。
こうした「守りの慣習」に対抗するため、リーダーは組織に、こうした傾向を訴え、気づきを与えなければならない。そして、社員が日常の仕事だけにとらわれないようにしなければならない。それには質問を徹底することだ。組織の常識の信頼性を問い、社員が自ら答えをきちんと持っているかどうかを確かめる必要がある。次のような質問が有効だ。
実務のプロになればなるほど、哲学的な質問をしなくなる。「XXとは何ぞや」ではなく、「どうしたらもっとうまくできるか」に関心が集中し、立ち回り術が評価基準になる。考えたくない領域は、「立ち入り禁止区域」として、組織のメンバーにも強要してしまう。もう一度忙しさから自分を解放し、思索する時間を設けてみよう。そして自分は質問役だと公言し、質問しまくろう。組織のイナーシャに揺さぶりをかける役を演じるわけだ。
とくおか・こういちろう 日産自動車にて人事部門各部署を歴任。欧州日産出向。オックスフォード大学留学。1999年より、コミュニケーションコンサルティングで世界最大手の米フライシュマン・ヒラードの日本法人であるフライシュマン・ヒラード・ジャパンに勤務。コミュニケーション、人事コンサルティング、職場活性化などに従事。多摩大学知識リーダーシップ綜合研究所教授。著書に「人事異動」(新潮社)、「チームコーチングの技術」(ダイヤモンド社)、「シャドーワーク」(一條和生との共著、東洋経済新報社)など。
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