戦略モデルを導入するなら「毎年5度ずつ」舵を切れ闘うマネジャー(1/2 ページ)

一定の成果を上げた戦略モデルをまねる場合でも、個別の事情から断念してしまうことがある。ここを突破するには、あせらず、問題の本質をしっかりと見据えなくてはならない。

» 2009年02月20日 14時32分 公開
[島村秀世,ITmedia]

ディフェンシブな組織になる理由

 地域振興を目標に掲げていない自治体はない。しかし、地場の中小零細企業にシステム開発を依頼する自治体は極めてまれだ。地域振興の要(かなめ)が中小零細にあるのを承知していない自治体職員はいないというのに、中央の大手企業もしくは地元の大手企業に発注してしまう。地元の中小零細企業に発注するための手法がないわけではない。「ながさきITモデル」などがちゃんと存在している。なんで大手へと傾くことをやめないのだろう。

 IT分野でも地域振興を考えたいからと、毎月、さまざまな自治体が「ながさきITモデル」を聞きに筆者のもとを訪れる。どなたも、目をキラキラさせ「こうすればできるんだ」と納得し、「うちでも進めてみます」と意気揚々と帰るのだが、翌日、報告書を書こうと自席に着いた途端「うちでは難しい」と言い出す。また、この報告書が小憎らしい。大抵こんなことが書いてあるのだそうだ。

 『長崎県庁にはキーパーソンとして島村理事がいますが、私どもに同様な人材はいません。推進力にいささか無理があると考えます。また、長崎県庁では財政部門の理解も厚く、デザインや改修など小規模発注のための予算が確保されていますが、私どもの制度ではこのような予算がつくことはないと考えます』

 人間ならば誰にでも、現実のすべてが見えるわけではない。多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていないというが、見事な報告だ。現実を深く見せず、表面的な事象を際立たせて難しさに納得感を与えている。よく考えて欲しい。モデルを提唱し、実践してみせて、成功させるには難しさも苦労もあるが、まねるときに同じ難しさがあるわけがない。しかし、このように報告されたら、「やめておこう」と思うのが普通だ。

 長崎を訪問した職員の報告を聞くだけだから駄目なのだろうと思い、相手側の自治体に出向いて話してみたが、同様な答えが返ってくる。しかも、課長を始めとする幹部からだ。自治体職員だからこうなのだろうかと思えば、そうでもない。民間の人達に話しても同様な答えが返ってくる。どうも、課題の本質は別のところにある。

 システムは効率的な組織運営や意志決定に必要なもの、つまり「戦略的な攻めの道具」として捉えられているが、それを担うシステム部門は真逆にいる。彼らは、ディフェンシブ(防御的)な行動を取っている。だからこそ、上記のような報告になるのだと考えられる。

 システム部門が保守的なだけなら改革の糸口もありそうだが、ディフェンシブとなると手強い。ディフェンシブな組織運営では、構想の段階でリスクの芽をつぶしておき、システム構築の段階では淡々と作業が進められるように計画する。求めるのは着実で失敗しない手順であり、華やかさは求めない。例えば、大手と中小零細企業の技術水準を数値化すれば、大手は75点、中小零細は59点という感しではないだろうか。これでは、始めから中小零細はリスク因子でしかないと判断され、取り除かれる。地域振興を強く首長(知事や市長のことを指す)が指示した場合でも、地場大手を使うことに切り替え、首長と対話している段階から地場中小零細企業をリスクの芽として切り離す。

 ハード面でも同様なことが言える。ディフェンシブな組織では汎用機をやめようとはしない。LinuxやWindowsは、よく固まり、よく落ちるからだそうだ。

 もちろん、ディフェンシブにならざるを得ない事情もある。年々システムの守備範囲は増加するが、システム部門の人員はわずかずつではあるが削減傾向にある。セキュリティも求められるので、システムは加速度的に複雑化している。朝、職場に来てログインできないなんてことになれば、システム部門は電話対応に追われるばかりか、ものによったらマスコミ対応までしなければならない。昨年9月の全日空搭乗システム障害は、まさにこの例だ。システム部門は、いつの間にか「気が休まらない組織」になっている。これでは、ディフェンシブになって当たり前だ。

 人事異動をみても、「彼は、システムに欠かせない人材だ」として10年も在籍させたり、出戻ったりさせるが、幹部は2〜3年で入れ替わる。改革すべき立場にいるものが早く異動してしまうのだから、これでは、長く在籍する職員はディフェンシブに行動せざるを得ない。

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