アウトソーシングの新たなトレンド「KPO」って何?Next Wave(1/2 ページ)

海外では欧米を中心にKPOと呼ばれる新たなアウトソーシングの利用形態が始まっている。従来では考えられなかったスピード感で高付加価値業務を実現し、競争力強化を実現するKPOとは一体何か。

» 2009年07月22日 14時11分 公開
[富永康信(ロビンソン),ITmedia]

インドを中心に勃興するKPOベンダー

 業務のアウトソーシング形態の1つとして、2000年代初めから欧米企業を中心に「KPO」(Knowledge Process Outsourcing)の利用が拡大している。知的業務委託と訳されるKPOは、全世界の企業や地域を対象に、顧客企業が求めるハイレベルな業務を引き受ける専門企業によって提供される。その世界市場規模は、2010年には170億ドルにも達するといわれ、KPOベンダーも増加中だ。

 主にインドや中国にサービスの拠点を構え、高学歴だが低賃金な人材を数多く抱えて、グローバル市場で24時間対応可能な体制を整えているのが、従来のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)と大きく異なっている。

 BPOは比較的単純な労働集約型業務の外部委託が中心で、相応の教育を受けた人材がマニュアル化しやすい業務を対象に、委託先の期待に沿った結果を出すことが目的だ。例えば、財務・会計データや購買顧客データの単純入力などがそれにあたる。

 一方、KPOベンダーの主な業務は、データの収集や加工(データギャザリング)とデータの分析・アナリシスなどが中心。規則性が少なく判断領域が多いため、手間と時間がかかる割にはマニュアル化しにくく、他に委託できなかった知的作業の下準備やデータ加工ということになる。

 中でも、MBAやLL.M.(Master of Laws)、CPA(米国公認会計士)などの高等教育経験者が多数在籍し、依頼項目以上の付加価値を加えた情報解釈を提供する。例えば、競合他社の財務状況比較分析や対応策の提供、税務対応・税金マネジメント、顧客データの分析と対応策の提供といった知的集約型業務である。

 海外でのKPOの実態をより具体的に説明してくれるのは、野村総合研究所(NRI)の経営革新コンサルティング部で上級コンサルタントを務める山口隆夫氏だ。「金融を中心にKPOは拡大してきたが、不確実性の高い業務の中でもルーティン要素をできる限り紡ぎ出して汎用化することで、さまざまな業務で利用が拡大している」という同氏は、マーケティング分析や調査・分析など、マニュアル化されない企画業務のほか、交渉要素の高い営業的業務の一部もKPO化されつつあるという。

これまで単純業務の委託が中心のアウトソーシング業界で、提供サービスの付加価値化が進行(出典:野村総合研究所)

KPO市場は2010年に世界全体で170億ドル規模へ

6月29日開催の第110回NRIメディアフォーラムで、「KPO市場は2010年に世界全体で170億ドルに拡大するとみられる」と説明する野村総合研究所の山口隆夫氏

 KPO市場は欧米企業を中心に広がりを見せ、ある調査によると2010年には世界全体で170億ドルに拡大すると予測されている。これはBPO市場予測のおよそ10分の1の規模となる。KPOを受託する代表的企業には、インドIT業界で第3位のインフォシス・テクノロジーズを筆頭に、国際的な調査会社として知られるイバリュサーブ、GEの子会社のジェンパクト、元英国航空のインハウスBPOだったウインズ、証券業務に特化した分析業務を手掛けるコパルなどが存在する。

 いずれもインドや中国を拠点とする企業が多いことについて、山口氏は、(1)労働者収入が先進国比で劣位、(2)高い教育水準の人材層が豊富、(3)人口が多い地域、という条件を満たすと指摘。そのほかにもルーマニアやチリ、ブラジル、タイ、インドネシアなども、1人当たりのGDPが1万2000ドル以下で、かつ識字率も80%を超えるなど、将来KPOを担える有力な地域と分析する。

2010年ころには170億ドル(約1兆7000億円)に上ると推計されるKPO市場の大半は欧米企業によるもの(出典:野村総合研究所)

 KPOベンダーのサービス提供範囲は、図3に示す例にある通り多岐にわたり、“複雑”あるいは“極めて複雑”な業務が対象となる。ここで注目すべきは、それら高度な業務をおよそ15〜45ドルの時給で引き受けられるという点だ。先進国のレベルと比べ、コストパフォーマンスの高さが際だつ。

 有名校のMBAや税理士、証券アナリストなどの資格保持者が、こんな低賃金で調査・分析をしてくれるサービスはあまりないだろうという山口氏は、「単に分析するだけではなく、永続的にデータを利用できるようにシステム化し、依頼企業の社員が楽に創造的業務を進められるよう支援する。それが人気の理由となっている」と語る。

 仮に、自動車会社などが中国にオフショアを行おうとする場合、自分たちで現地の部品メーカーをすべてリストアップし、財務状況を洗いざらい調査することは容易なことではない。KPOベンダーなら潜在的な部品メーカーの財務健全性評価および経営リスク評価までやってのけ、報告書をデータベースとして受け取ることも可能になる。

KPOが守備範囲とする高付加価値業務の例(出典:野村総合研究所)
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