アウトソーシングの新たなトレンド「KPO」って何?Next Wave(2/2 ページ)

» 2009年07月22日 14時11分 公開
[富永康信(ロビンソン),ITmedia]
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高度な専門業務を5分の1のコストで提供

 KPOベンダーの業績拡大の要因は、発展途上国を中心に24時間網羅できるような地域に拠点を配置し、時間的制約の高い業務へ対応していること。さらに、英語を基盤として多言語対応できる人材を雇用し、サービス領域も金融のみならずITやヘルスケア、エンターティメントに至るまで、顧客企業の要望によって守備範囲を拡大できる柔軟さにある。

 例えば、業界第2位のイバリュサーブは世界約50カ国語に対応し、インドのグルガオンおよびノイダ、中国の上海、チリのバルパライソ、ルーマニアのクルージュにリサーチセンターを設け、世界の主要都市にセールスオフィスを約30拠点に配置することで、昼夜問わずいつでも作業依頼を受けられる体制を取っている。

 24時間以内にチェコの自動車部品メーカーにおける財務状況に関する評価や、48時間以内に香港のビルメンテナンス業者に関する適正評価およびコスト削減分析を実施するといった、従来では考えられないスピード感・グローバル感で高度な調査・分析・報告をすることができる。

 また、契約書類のリーガルチェックなどを行う場合、先進国の一般的な専門企業に依頼すると時間当たり1万5000〜3万円のコストが掛かるが、KPOベンダーでは時間あたり約6000円と5分の1のコスト差で提供できるのも大きな強みだ。

実際のサービスについてのヒアリング調査結果によるモデルケースのシミュレーション(出典:野村総合研究所)

日本のKPO化はまだこれから

 では、日本のKPO市場規模はどうだろう。NRIでは2008年時点で約89億円規模とし、2011年時点では約270億円にまで増加すると推定。しかし、これでも世界のKPO市場のわずか2%弱である。

 山口氏は、「日本のBPO活用状況は海外の先進国と比べると5〜10年ほど遅れていると見られ、KPOにおいても同様。しかし着実に成長していくだろう」と予測する。

 その理由として、日本の労働力人口の減少や先進国の中でも低い生産性、景気低迷によるコスト削減要求などの外部要因とともに、非正規雇用の増大、いびつな社員年齢の構成、メンタルヘルス問題やワークライフバランスといった内部要因も重なり、KPO化が選択肢の1つとして浮上する可能性を指摘する。

 ならば、日本では何が障害となっているのだろうか。

 必ずついて回るのは、日本語の微妙な言い回しへの対応が可能かといった懸念だ。あうんの呼吸や暗黙の了解といった“慣習”がいまでも重視され、日本語の機微が分からない外国人に業務を任せることに不安を感じるというもの。

 また、常に完ぺき以上にサービスやセキュリティ品質を期待する国民性がある。80〜90%はおろか95%の完成度でも詰めの甘さを指摘し、仮にミスが起こるとその原因をアウトソーシングに押し付けたがる傾向がある。

 さらに、日本の場合、業務を暗黙知のまま継承していることが多く、業務プロセスの可視化、標準化、マニュアル化がされていないため、外部に委託しにくいという課題や、BPOやKPO後に生じた余剰人員のリストラが進みにくいといった指摘もある。

 加えて、社会保険関連など特に人事分野の日本の法制度が複雑で、社会保険労務士や税理士などによって業務独占が認められているため、KPO ベンダーを利用できない問題も存在する。

 それ以外に山口氏は、「KPOベンダーが引き受けるような業務にこそ付加価値を生むプロセスがあるとして、安易に丸投げするのは知識空洞化や人材力低下を招くとする考えも多い」という。いかにも日本人らしい保守的、禁欲的発想だ。

不況の今こそKPOに注目するチャンス

 しかし、このままでは日本企業がグローバルで生き残っていくのは難しい。日本語対応を理由にアウトソーシングが進まないと考えるなら、ブリッジとなる業者を介し、言葉や文化の問題を解決すればいい。それを山口氏は「ナレッジコンシェルジェ」と呼ぶ。ナレッジコンシェルジェは通訳だけではなく、顧客企業の要望をカルテ化し、ニーズの伝達やKPOから上げられたデータの編集、チェックまでを行う。「その存在は、日本市場でKPOが普及するための重要なポイントとなるだろう」と山口氏。

 と同時に、企業側もあいまいな業務プロセスを見直し、KPO活用によってコスト削減や付加価値の増強が可能となる組織改革、さらにはKPO後の情報を有効活用できる人材育成も重要だと同氏は指摘する。

 既に海外では、多くの企業がKPOによってサービスのスピード感、提案レベルを格段に向上させ、生産性を急速に高めつつある。日本企業も文化の特殊性やガラパゴスを理由に手をこまねいている場合ではないのかもしれない。経済停滞によるコスト構造にスポットが当たる今こそ、業務を見直しKPOのような合理的な手法を取り入れるチャンスといえるだろう。

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