原上ソラ――勉強会の再構築を図る気鋭の中学生素顔のデジタルネイティブ(1/2 ページ)

1990年代以降に生まれ、その才能を芽生えさせつつある若い人材――原上ソラもそんな一人に数えられる。「勉強会の空気を新たにネット上にも構築してみたい。今度はオフが苦手な人たちも巻き込む規模で」と話す彼の素顔に迫る。

» 2009年08月01日 00時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 「Rubyで疑似Cometを実装してみた」「RubyとJavascriptの疑似Cometで疑似チャットを作ってみた」――これを見て、どこのシステムエンジニアのブログだろうと感じた方は、すでに感覚がズレはじめている。一見してパソコン歴が長いと感じさせるこの文を書いているのは、まだ13歳にも満たない若きデジタルネイティブである。

 この連載では、1990年代以降に生まれ、その才能を芽生えさせつつある若い人材を取り上げる。もっとも、この連載は「若さ」を売りにするものではない。若さに絶対的な価値があるのなら、若者のこれからの人生はただ衰えていくだけのむなしい時間でしかないからだ。若い才能が社会とどうかかわり、自らの自由を得ているのかを示すことが狙いである。

プログラマーは全員が少数派で、全員が変態

「顔写真はまだ勘弁してほしい。キモさも似ているMiiでイメージをつかんでほしい」とソラ

 「読書(主にラノベ)と卓球が好き。今までで一番よかったアニメは天元突破グレンラガン。ちなみに、けいおん! の澪みたいなツンデレに萌える」と息をつく間もなく自らのことを喋り続ける彼の名前は「原上ソラ」。年齢は12歳で、現在中学1年生。朝起きれば登校時間の早さにいら立ちながら、学校へ。それが終わると今度は塾へ。家に帰ると風呂に入り、そして就寝――それは、どこにでもいそうな中学生の姿である。しかし、この記事を読んでもらえれば一目瞭然(りょうぜん)なのだが、彼の言動のあらゆる場所から、ITに対する若い才能が感じられる。それは、「アイデアがあったらフローチャートを脳内に描く。というか、フローチャートを脳内に作る前にVimを開いてコードを書き始めている」という彼の言葉1つ取り上げてもすでに見て取れる。彼は若くして生粋のコーダーとして活躍している。

 「プログラミング言語は、遺伝し、進化を重ねた結果、多様性を帯びるようになっていて、もはや、プログラミング言語の習得にかんするモデルケースはなくなりつつあると思う。全員が少数派で、全員が変態」と話すソラはほとんど独学でプログラミングを学んだ。お気に入りのRubyはもちろん、Erlang/Python/Javaなどの言語にも果敢に挑戦し、最近ではGoogle App Engine上でアプリケーションを動作させていたりする。「コーディングスタイルはぐちゃぐちゃ(笑)。elsif (else if)を使えばいいのにelseにifを入れたりするし、変数の命名でも、“response”という文字列を“respons”にして、ほかの方からtypoだろとdisられたりする」と笑う。

 「大きいものを作ろうとすると挫折するので、小さいスクリプトを地道に組んでいるだけ」と彼は控えめに話すが、自身のサイト「cod.note」で披露している成果物には、Twitterの任意の2ユーザーの直近のpostからマルコフ連鎖で文を生成する「Unitter」をはじめ、大人顔負けのコードが並ぶ。

 「(書いたコードが)エラーなしで動いたとき、僕は快感を感じる。その中でも、特に、一発でエラーなしで動いたときは『やったぜ!』という達成感がある。こうした感覚を味あわせてくれるプログラミング(主にRuby)に出会えてよかったと心底思う」(ソラ)

 原上ソラという名前は本名ではなく、ネット上で利用するハンドルネームである。「本名を書きたいところだけど、それによってリアルの場で特定されてしまうと、いろいろとやりにくい部分が出てくるだろうから、本名を公開するのは控えたい。中学校というコミュニティーに属するリアルの自分と、ネット上の自分はまだ一致させたくない。憶病なのかもしれないけど」とソラは話す。「原上ソラ」が実名であるかハンドルネームであるかどうかは、ここではさしたる問題でもないだろう。実際のところ、ソラがリアルとネットの存在を分けているのにはそれなりの理由があるのだが、本稿ではそこには踏み入らない。彼の本名で検索すると、また別の軌跡をたどることができるということだけを伝えておけば十分だろう。

プログラミングに必要なもの

 ソラがはじめてPCに触れたのは「3歳」のとき。その後程なくして日本語プログラミング言語「TTSneo」に手を出す。「本格的にプログラミング言語に触れたのはこの世代でありがちなHSPかな。すごく退屈な答えになってしまってすみません」とソラ。小学5年の夏休みにMac miniを買って、UNIXコマンドを本格的に覚えはじめたという。「その後、家に転がっていた古いFMVのマシンにDebianを入れていろいろ遊んでいたんだけど、Ubuntu 9.04が公開されたころ、Debianのaptデータベースが壊れたみたいで、それを機にUbuntu sevrer 9.04をインストールした。apt-getに慣れきってしまっているのでDebian系のディストリが楽でいい」と話す。

 そんなソラのメインの開発環境は「貯金が知らないうちにたまっていたのでついカッとなって購入した。購入した後すぐに値段が下がって、これがMacの洗礼なのだと思った」というMacbook MB881J/A。エディタはvim(MacVim)を、FlexやJavaを使うときはそれぞれFlex builder、Netbeansなどを使っているという。「ちなみに、シェルはつい最近bashからzshに乗り換えた。zshの超強力すぎて困るぐらいの補完はまだ使いこなしていないけど、ruby f<Tab>キーで補完すると同じファイル名で拡張子が違うファイル群からrbを補完してくれるところからして素晴らしいシェルだなと思う」

 「エディタ、キーボード、インターネットが僕にとって開発の3種の神器。キーボードはパンタグラフ方式のものが打鍵の感覚がよいので好みだけど、とりあえずエディタとキーボードさえあれば、myloやiPod touchなどでもプログラミングはできる。もちろんガラパゴス携帯でもね……。極端な話、紙とペンでもいい。紙面デバッグ人間コンパイル人間実行を繰り返していればすぐに時間が過ぎる」と話す彼の姿はデジタルネイティブそのものだ。

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