2010年という年伴大作の木漏れ日(2/3 ページ)

» 2009年12月27日 17時14分 公開
[伴大作,ITmedia]

「クラウド的」なモノ

 一方のクラウドだが、今年に限っては失速したと言わざるを得ない。利用する側の企業ユーザーにそれを受け入れる体制がほとんどできていなかったことに加え、さまざまなクラウドの存在がユーザーの混乱を招いた。ユーザー企業によるICT予算の削減も、新しい試みをはばんだ。企業ユーザーは、眼前にある問題の解決に精一杯で、クラウドどころではなかった。

 しかし「クラウド的」なモノは確実にわれわれの周りに広がっている。みな気がついていないだけだ。

 クラウドが「利用者にはどのようなシステム構成になっているか分からず、ただサービスを提供するインフラ」だと仮定すると、多くのレンタルサーバはこの定義に合致する。レンタルサーバを利用するほとんどのユーザーは、その企業のサーバのハードウェア、OS、ソフトウェア、ネットワークの詳細を把握していない。彼らにとって重要なのは料金であり、容量、ネットワーク帯域、障害の少なさだ。

 もちろん、パブリッククラウドとして代表的なAmazonのECサイトのことを知らないわけではない。しかし、レンタルサーバの方が使い勝手が良い分、むしろ僕にはクラウドらしく映る。(多くのホスティング事業者やレンタルサーバ事業者がクラウドシステムを利用していない実態を知っている)

 「クラウド的」なモノとして、上記したWebサーバビジネスを挙げたが、それ以外にも、ゲームやECサイト、インターネットを介して提供されているさまざまなサービスを提供している事業者は、既存のシステムを利用しているケースが大半だ。IBMは、ユーザーがコスト面でクラウドの方が有利と判断すればすぐにでも移行すると主張しているが、そうはならない。このあたりにクラウドの問題点がありそうだ。

クラウドが導入されない真の事情

 企業の情報システム部門は、通常ベンダーからハードウェアを購入し、システムインテグレーター、ソフトウェアベンダー、ネットワークインテグレーターの手助けを借りて、システムを構築する。当然、自社のファシリティにマシンを設置し、運用するのが通常だ。

 しかし、もしクラウドを導入しようとすると、上記の仕組みの多くの部分が自社内からクラウドセンターに移管されてしまう。コンピュータの主要なハードウェア、ネットワークの機材、使用するキャリアやサービスなどはすべてデータセンター側のレディメードに委ねられる。また、使用するOSや開発言語、ミドルウェアなども開発に絡むほぼすべてのツールも制限を受けると考えていい。

 開発環境のここまでの劇的な変化を、企業の情報システム部門は果たして受け入れることなどできるのだろうか。また、クラウドを本格導入すると、従来社内に抱えていたプログラマーやエンジニアの雇用に大きな影響を受ける。情報システム予算も大幅に削減されるのも明らかだ。

 何よりも、情報システム部門が恐れているのは、いままで自らが担ってきた企業の情報管理という役割が大きく変化する可能性だ。これは自らの権力基盤が損なわれることを意味する。ほかの事務部門、営業や製造などの現業部門と比して、これまで特別扱いされてきた優位性が失われる。考えたくもない「悪魔のシナリオ」だ。これでは、クラウド導入に尻込みするのは無理がない。

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