世界で勝つ 強い日本企業のつくり方

宋文洲が伝える日本復活へのメッセージ世界で勝つ 強い日本企業のつくり方(2/4 ページ)

» 2010年02月17日 07時00分 公開
[構成:國谷武史,ITmedia]

多様性があるのは当たり前

 今、世界は昔のように単純ではなくなり、価値観が増えて、成熟した先進国市場があれば、中国やインドのような新興国市場、これから市場になるような地域がある。このように多様性があるグローバルな市場のすべてに日本企業が進出するなら、まず地域の文化や顧客を理解できる組織が必要だ。市場には格差があることを理解し、受け入れなければならない。しかし、日本人は多様性のほんの一面だけをとらえてしまいがちだ。

 今まで日本企業が成長できたのは、相手が米国や欧州といった先進国ばかりだったからだと思う。例えばソニーのウォークマンは中国やインドでたくさん売れただろうか。ほとんどが欧米市場だっただろう。従来の日本型組織は、競争や勇敢さだけが求められるような短期的な戦いには強かったが、戦略が問われる長期戦には弱い。例えば、ある日本企業は短期間で一気に成長した。社員全員が「営業だ! 営業だ!」と根性で客先に飛び込むといった具合で、そのような会社は確かに短期間にみればすごく成長できる。

 でも、わたしがかつてそのような営業体質を批判したように、こうした企業は10年も20年も存続しない。20年、30年と続く企業に共通しているのは、社員全員が「自分」という意識を持っていること。もちろん組織的にも活動しているけど、社員一人ひとりが知恵を出して動いている。そうした会社で働いている人には「ロイヤリティ」が備わっている。だが、決して「忠誠心」ではない。わたしが言うロイヤリティとは「愛着心」に近い。忠誠心は「部長が残業しているから帰りたくても帰れないな」というものだ。しかし、ロイヤリティは常に自分から何かをしたいというもので、忠誠心とは違う。

 かつて日本が成長できたのは、テレビや冷蔵庫、エアコンと次々に売れるものがあったからだ。膨大な市場があれば、品質さえ守って技術力で攻勢をかけていけば日本は強い。じゃあアフリカで売れるにはどうするか、中国やアジアでどう売るかはみんな違うので難しい。中国の中だって北京や上海と四川では全く違う。このようにそれぞれ違う市場へ出て行こうとしても、従来型の日本の組織は向いていない。市場に格差があるという事実を受け入れないとだめだ。口でいうのは簡単だけど、それを実感しないといけない。

 例えばインドで20万円の車(TATA nano)が売れるというのを信じていない人も多い。実際に見てみれば分かるが、日本車とは違うけど立派な製品だ。日本が自動車を売りたいのならば、昔のように欧米だけを相手にしていればいい。しかし、すぐに中国メーカーが日本車ほどの性能を持っていなくてもそれに近いレベルの製品を安く売り出す。実際に韓国のメーカーが始めている。

 これからは、先進国でも売れて、新興国でも売れて、将来市場になるような地域でも売れる産業構造にしていかないといけない。「わたしたちはこれだけしかしません」といったままではジリ貧になるだけだ。

 そうするには、市場の下(低所得)の方から攻めていかないといけない。日本も最初はそうしていたはずだろう。日本が米国へ初期に輸出した車はいつも高速道路で故障を起こしていたが、それでも米国は格差社会なので安い日本車を買う人々がいた。日本にとっては大きな売り上げで、日本人は稼いだ資金を元手に改良を繰り返してどんどんと品質を高めていった。残念ながら今の日本人はそれを忘れてしまったようだ。

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