世界で勝つ 強い日本企業のつくり方

宋文洲が伝える日本復活へのメッセージ世界で勝つ 強い日本企業のつくり方(3/4 ページ)

» 2010年02月17日 07時00分 公開
[構成:國谷武史,ITmedia]

ベンチャーに身構えなくてもいい

 日本ではベンチャー企業を警戒したり、何かしたりしようとすると社会がベンチャー企業を非難するところがある。なぜそうなってしまったのかわたしには分からないし、日本人自身も分からないんじゃないかな。

宋文洲氏

 中国と日本とでは明らかに違うことがあって、中国の学校で小さい子どもたちに将来何になりたいかを聞くと、半分以上が「社長になりたい」と答える。20代や30代に聞いても、3割近くの人が起業して社長になりたいと答えるね。実際の社会ではそんなに簡単じゃないし、失敗して挫折する人もいるけど、社長になりたいという人が多いのは事実だ。社長を目指す人に「無理だ」「失敗するぞ」と意見しても、彼らは自分の希望を正々堂々と主張する。

 日本では例えば会社の先輩に後輩が「社長になりたいんです」と言っても、「何を言っているんだ」「部下の立場で言うことではない」と反論されて、何も言えなくなってしまう。この点は日本と中国でまったく違うよ。日本では先輩が後輩を押さえこむし、学校でも同じだ。小さいころから押さえ込まれれば、言いたいことが言えなくなるし、消極的になってしまう。それだけで起業家精神が失われてしまう。

 創業なんて大変なものじゃない。つまり、誰かの下ではなく、個人として自由に働くということ。フリーターでも創業者になれる。でも、70代になっても80代になっても会社から離れられない人がいる。社長じゃなくても80代でなぜか人事権を持っている場合もある。この人たちからすれば60代だって後輩だし、若造だっていう。わたしからみればどちらも年配なんだけどね(笑)。そんな会社で20代や30代の人たちが何かしたいと言っても、どう考えたってできるわけがないよ。

 仮に30代や40代になって成功して、さらに何かしようとすると、社会が押さえつけようとする。かつて堀江さん(堀江貴文氏)がいろいろやろうとしたが、彼がそうしようとしたベンチャー精神は尊敬できる。ソフトブレーンが上場したころは、ほかにもたくさんベンチャー企業があって、良い起業家がたくさんいた。でも、なぜかは分からないがマスコミも含めてベンチャー企業に対する社会の風当たりは強かった。

 今、日本の大手エレクトロニクスメーカーやIT企業などの利益を足したとしても、Samsungには及ばないだろう。20年前にこんな状況になるとは誰も予想しなかっただろうし、当時はSamsungを韓国のベンチャー企業の1つにすぎないと多くの日本人が軽視していた。今になって「日本の実力はこんなものじゃない」と思いたくても、これが現実だ。

 日本の多くの自動車メーカーだって昔はベンチャー企業だったのに、なぜ今の日本はベンチャーを恐れるのか。ベンチャーの成長を恐怖に感じる風潮は海外にだってある。「初心に帰れ」という日本人が好きな言葉があるけど、日本人はなぜ実践しないのだろうか。スタート地点に戻ればいいだけだ。でも、言葉でいうほど人間は簡単には戻れないんだけどね。

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