通信関連市場の現状と将来の展望アナリストの視点(1/2 ページ)

ブロードバンドの普及やNGNなど、通信市場を取り巻く状況は変化している。通信機器やシステム、サービスに関する市場はどう変化していくのか。分析結果から、現状と将来の展望を伝える。

» 2010年02月23日 08時00分 公開
[菅又和彦(富士キメラ総研),ITmedia]

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 通信関連機器やシステムの分野では、コア/メトロネットワーク光伝送装置やハイエンドルータなどの売り上げが伸びた。NTTグループが2008年度に次世代ネットワーク(NGN)というコンセプトを打ち出したことで、関連製品の需要が高まったからだ。ブロードバンドやVPNの普及で企業内外のトラフィックが増加傾向にある中、処理能力を高めるWAN高速化装置などのニーズも根強い。

 通信サービスでは、NTTグループやKDDI、電力系通信キャリアの動きが盛んだ。FTTH/0AB〜J-IP電話(固定電話と同じ形式の電話番号を持つIP電話)/映像配信の各サービスを“トリプルプレイ”として提供し、インターネットに詳しくない人やADSLサービスの利用者を取り込んでいる。通信キャリアは、デジタルテレビやゲーム機によるインターネットの利用シーンを提案し、FTTHサービスの需要維持を狙っている。

 富士キメラ総研は、通信機器/システムおよび通信サービスという分野で、通信関連市場を分析した。同市場の概況を伝える。

通信機器/システム市場の概況

 2008年度における国内の通信機器/システム市場は3兆2657億円で、2007年度より約4000億円縮小した。携帯電話端末の出荷台数が大幅に減少したからだ。背景には、個人向けの新規需要が飽和したこと、割賦販売方式制度の導入で買い替え期間が長期化したことがある。

 同市場は2013年度には2兆9814億円となり、さらに縮小する見通しだ。ブロードバンドサービスの普及率の高まりにより、PONシステムなどを含むネットワーク関連市場、MFP(Multifunction Peripheral:複合機)の低価格化による固定音声関連機器市場がそれぞれ縮小すると予測される(図1)。

 表1は、同市場をカテゴリーごとに分けたものである。また表2は、各市場動向の詳細と今後の展望をまとめたものだ。

カテゴリー 対象製品
光伝送装置 コア/メトロネットワーク光伝送装置
ネットワーク関連機器 ルータ、L2/L3スイッチ、ギガビットイーサネット多重装置、メディアコンバータ、無線LANスイッチ/コントローラー、WAN高速化装置、帯域制御装置、L4-7スイッチ、セキュリティアプライアンス、Webアプリケーションファイアウォール、RADIUSサーバ、PONシステム、VDSL/ADSL/CATV/PLC関連機器(消費者向け)、無線LAN機器、ブロードバンドルータ、デジタルヘッドエンドシステム、CATV-STB、IP-STB
固定音声関連機器 IP-PBX、ビジネスホン、IP電話端末、構内PHSシステム、ソフトスイッチ、FAX/MFP、コードレス電話
移動体関連機器 携帯電話端末、PHS端末、スマートフォン、WiMAX端末
移動体基地局 携帯電話基地局、PHS基地局、WiMAX基地局
コラボレーション/映像関連システム テレビ会議システム、Web会議システム、音声会議システム、テレビドアホン
表1:通信機器/システム市場の対象製品

市場 2008年度の市場規模 背景(2008年度) 2009年度以降の市場規模の見通し 背景(2009年度以降)
光伝送装置 拡大 NTTグループによるNGN(次世代ネットワーク)向けの設備投資が進んだ 縮小 WDM(Wavelength Division Multiplexing:波長分割多重)におけるNGN向け需要減少、SONET/SDH伝送装置におけるレガシー電話サービス向け需要減少などが響く
ネットワーク関連機器 拡大 NGNの展開においてルータやPONシステムの需要が高まったほか、増設、ネットワークの再構築による新規需要を獲得したセキュリティアプライアンスの需要が増えた 縮小 PONシステムやVDSL(Very high-bit-rate Digital Subscriber Line:1対の電話線を使った高速通信サービス)関連のアクセスネットワーク機器の需要が減る
固定音声関連機器 大きな落ち込み 景気後退により企業のMFP(Multifunction Peripheral:多機能周辺装置)の入れ替えが長期化した 縮小 企業内のIPセントレックス化が進み、IP-PBXの需要が減少する。固定電話回線を使った通話が減り、ビジネスホンの需要も影響を受ける
移動体関連機器 大きな落ち込み 携帯電話の新規需要の飽和、買い替えサイクルの長期化 縮小 モバイルWiMAXサービス、次世代PHSサービス、LTEサービス開始に伴うデータ通信端末の活性化が期待されるが、音声端末における買い替えサイクルの長期化や固定化が想定される
移動体基地局 縮小 KDDIを除く各キャリアがネットワーク関連のコストを効率化するために携帯電話の基地局への投資を抑制した 横ばい 各キャリアがWiMAX/次世代PHS/LTEサービスを展開するための設備投資を計画
コラボレーション/映像関連システム 縮小 新築住宅着工数の減少に伴い、テレビドアホンの需要が減少した 拡大 会議システムの新規需要が一巡する見込みだが、HD製品に対する需要、顧客サポートや遠隔講義といった会議以外の用途での需要が見込まれるため
表2:通信機器/システムの市場ごとの市場規模推移

注目製品

製品 2008年度金額 2013年度金額予測 2008〜2013年の増加額
スマートフォン 670 1500 830
セキュリティアプライアンス 607 858 251
テレビ会議システム+MCU 202 319 117
表3:通信機器/システム市場における注目製品(単位:億円)

 表3は、2008年度から2013年度に拡大が期待される各製品の市場規模である。具体的には、スマートフォン、セキュリティアプライアンス、テレビ会議システムおよびMCU(Multi point Control Unit:多地点接続装置)関連の製品だ。

 スマートフォンは、「iPhone 3GS」やAndroid搭載端末「HT-03A」など話題性のある製品が投入されたことが影響し、2009年度の市場は拡大する見通しだ。スマートフォンは今後、ワンセグやおサイフケータイへの対応が進み、幅広い利用者を獲得すると考えられる。

 セキュリティアプライアンスは、FW/VPNアプライアンスにアンチウイルスやIPS(不正侵入防止)機能を搭載したUTM(統合脅威管理)アプライアンス製品が増えている。セキュリティ対策を一元管理したい企業の需要を取り込む形で、今後も市場が拡大していくと予測される。

 テレビ会議システムおよびMCU製品は、HD製品の価格下落や出張費用削減の用途により、新たな需要が喚起される。これらの製品は2002年度ごろから導入が進んできたが、今後は既存ユーザーのシステム償却時期が来るため、入れ替え需要が発生するとみられる。

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