サービスマネジメントの新しい「鼓動」

「スマートなマンホール」にアセットマネジメントの未来を見たIBM Pulse 2010 Report

米国ラスベガスでTivoliの年次カンファレンス「Pulse 2010」が開幕。例年にも増してIT資産と非IT資産の統合管理に重きが置かれ、TivoliポートフォリオにおけるMaximoの存在感が増しつつあるようだ。

» 2010年02月24日 08時00分 公開
[石森将文,ITmedia]
アル・ゾラ Tivoliゼネラルマネジャー アル・ゾラ Tivoliゼネラルマネジャー

 米国時間の2月22日――IBMのソフトウェアブランド「Tivoli」の年次カンファレンスである「Pulse」が、3度目の開催を迎えた。昨年、一昨年と4000人強という規模のカンファレンスだったが、今年は5300人を超える参加者が、開催地ラスベガスに参集。サービスマネジメント分野への投資意欲回復も匂わせる規模となった。

 初日、基調講演のスピーカーを務めるのは、既にお馴染みのアル・ゾラ Tivoliゼネラルマネジャー。2008年のPulseではサービスマネジメントの産業化(Industrialization)を謳い、2009年にはダイナミックインフラストラクチャに基づきサイロ化(縦割り化)された組織を打破せよ、としたゾラ氏が今年提示するのは、どのような理念なのか。

 「世界は“スマーター”になりつつある」――IBMのコーポレートビジョンSmarter Planetの言葉遣いに従い――ゾラ氏は話す。ここ数年で、人/モノ/サービスがよりIT化され、相互接続されたと言える。

 ゾラ氏は「われわれIBMの貢献も大きい」とゾラ氏は主張する。例えば(いずれもIBMの調査/主張による数値だが)都市の交通量を20%削減したり、米国のある医療機関では患者への医療提供コストを90%削減できたりした例があるという。また米国空軍では、約100の基地と70万人以上の人員が、Tivoliサービスマネジメントのインフラに乗っていると紹介された(特にセキュリティインシデントのマネジメントに用いられているようだ)。

 ただし、これらの取り組みが企業に完全に浸透したわけではない。ゾラ氏がヒアリングをしたある顧客企業では、調査の結果150万種以上の資産が存在し、その評価総額が9000万ドル以上にのぼると判明した。だが彼らは当初、例えばExcelのようなツールでこれらの管理を試みた。これに対しゾラ氏は、顧客であるにもかかわらず「you can not be serious!(マジメにやれよ!)と感じた」と話す。

Integrated Service ManagementはDIの置き換えではない

 では、これからサービスマネジメントに取り組む企業が指針とすべき理念は何か? それは「Integrated Service Management」だとゾラ氏は説く。この理念のもとで企業は、産業分野ごとに最適化されたアーキテクチャを持ち、開始から終了にいたるサービスのライフサイクルマネジメントを包含し、リクエストやインシデントは常にダッシュボードで可視化されることになる。

 とはいえこれだけでは、従来から主張されてきたDynamic Infrastructureなどと、大きく変わるところはない。「Integrated Service ManagementはVisibility/Automation/Contorolをもたらす」というゾラ氏の紹介からは、正直なところDynamic Infrastructureを言い換えただけでは? という捉え方も成り立ってしまう。

Integrated Service Managementの枠組み。これだけを見ると、さほど目新しい主張があるわけではない Integrated Service Managementの枠組み。これだけを見ると、さほど目新しい主張があるわけではない

 ただIntegrated Service Managementにおいて、従来より明らかに存在感を増した分野がある。それはMaximoが主に担うEnterprise Asset Management(EAM:企業資産管理)だ。

 2009年のPulseでは、各家庭の電力メーターをIT化(スマートメーター化)して発電拠点を結び、需給予測を立てるデモが行われた。このネットワークは電力網の死活監視も行っており、送電塔や変圧器に障害が発生した場合もモニターでき、迅速な対応が可能とされた。この仕組みはヒューストンの電力会社などで実際に稼働しており、いわゆるスマートグリッドの礎となり得るソリューションである。

 電力のようなユーティリティ産業のデモや事例は、ある意味“見栄え”がする。スマートグリッドが話題になり始めたタイミングだったこともあり、昨年にはふさわしいものであったと言えるだろう。

 だが今年のPulseに登場したスマートデバイスはちょっと違う。非ITへの管理対象が拡大した結果、なにせ紹介されたのは「スマートマンホール」なのだから――。

日曜大工でDIYできそうなスマートマンホールの佇まいが、記者にはツボである(もちろん良い意味で)。こういったものが大真面目に語られるほど、スマートデバイスが当たり前になるつつあるということだろう(写真=左)、Tivoli Integrated Portalがダッシュボードとして可視化の窓口となる(写真=中)、管理対象の資産はマップ上でビジュアルに確認できる(写真=右)

 “スマートマンホール”は、自身を通過した水量を動的に検知する。その値は給水拠点で一元管理され、需給予測を立てたり、大雨、増水による水あふれを防止したりする。拠点(つまりマンホール)ごとのステータスは、ビジュアルなマップからドリルダウンできるし、拠点間(要はマンホールとマンホールの間の水路)の状況も確認できる。データはフィールドスタッフの配置とも連携し、メンテナンスや障害対応に生かされる。この仕組みは既に、ロサンゼルス市で採用されているという。

 このソリューションの発展系が、ラスベガスを拠点に複数のホテル、カジノ、飲食店などを複合経営する「Sandsグループ」に導入されている。同グループでは、複数のデータセンターをはじめ、日々大量の電力、水、そしてそれに関連する設備を利用し、メンテナンスしなければならない。サイロ化された構造のまま、個別に管理するのは効率が悪く、「電力が足りない場合は、レストランを閉めていた。だって収益の源泉であるカジノの営業を止めるわけには行かないからね!」とはSandsグループの経営責任者の弁である(もちろんアメリカンジョークである。おそらく……)。

 Sandsグループのダッシュボードには、電力・水力資産の需給や死活監視とともに、それと連動したデータセンターのPower Usageや客室占有率が可視化される。もちろんダッシュボードからは、各資産の詳細な健康状態や、イベント/インシデントのリストにドリルダウンできる。

Sandsグループのダッシュボードでは各資産状況と客室占有率が連動する。いわば経営の可視化も果たされている(写真=左)、ダッシュボードからのドリルダウンで、個別の資産のステータスを把握できる(写真=中)、併せてイベントの確認も可能(写真=右)

リコーと協業

 なおIBMは、オフィス内のイメージング機器(プリンタや複合機など)をその資産管理の傘の下に包含するため、米国時間の2月22日、リコーとの協業を発表している。


 一昨年、昨年と、Pulseでは常に「IT資産と非IT資産を統合管理する必要性」が主張されてきた。同時に、「組織やシステムのサイロ化」にも警鐘が鳴らし続けられた。見方を変えれば、ビジョンが浸透しきっていなかったから、とも考えられる。

 だがPulse2010では、啓蒙段階のプレゼンテーションは影を潜めた。聴衆も、非IT資産を包含した統合管理と、その先にある「(動的管理、リアルタイムな可視化による)対処保守から予防保守へ」という流れを、当たり前のものとして受け入れつつあるようだ。

 ゾラ氏の紹介によると、IBMの基礎研究では、1つの業務プロセス改善が、最大10億ものトランザクション削減につながるというデータが出ているという。「既存の業務プロセスやトランザクションを、あって当たり前のものと考えてはならない。われわれは思考を停止せず、改善を続けなければならない」(ゾラ氏)

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