CIOは本当に必要か? 〜後編戦略コンサルタントの視点(1/2 ページ)

企業は情報システムをどのような考え方で運営していくべきか。戦略コンサルティングファーム独ローランド・ベルガーに連載してもらう。3回目は、CIOの存在意義をテーマにした後編。

» 2010年03月09日 13時28分 公開
[大野隆司(ローランド・ベルガー),ITmedia]

 所有から利用への流れが現実味を帯びるなど、企業が活用するITの在り方が変化しつつある。今後、企業は情報システムをどのような考え方で運営していくべきか。戦略コンサルティングファーム独ローランド・ベルガーに連載してもらう。3回目は、2回目の後編としてCIOの存在意義をテーマに扱う。


 前回は、CIO(最高情報責任者)の責任範囲・役割の拡大が「IT業界」で唱えられており「CIOは最高イノベーション責任者たるべし」との論調があること、そしてイノベーションの最高責任者を置くことは良いことではあるものの、その責をCIOに負わすのは妥当ではないことを解説しました。

 CIOが適任ではない理由として「ITありきの改革」を避けることが担保できないことを述べましたが、今回はその点についてもう少し深く触れてみます。結論を言えば「ITを切り口とした改革は中途半端になる」ということです。

いまだに目にする「ビジネスとIT」という二元論

 中途半端になる理由はシンプルです。企業のビジネスはITだけで回っているわけではないからです。企業のほとんどのビジネスは、ITを含めた幾つかの要素で構成されており、これはオペレーションと呼ばれます。

 ITはあくまでもオペレーションの1つの構成要素です。実のある改革案を生み出すためには、オペレーションはどうあるべきか、オペレーションのどこに原因があるのか、それらはどのように関連しあっているのか、といった視点で思考しなければならないということです。

 IT業界はもとより、コンサルティング業界においても、自社のサービスや改革アプローチの解説において「ITとビジネスの連携」「業務とITに精通した」といった二元論的な文言を目にすることが多いのですが、IT以外の要素を一緒にして「ビジネス」「業務」と括ってしまうスタイルには違和感をもたざるを得ません。

最高イノベーション責任者は誰がふさわしいのか?

 責任者はオペレーション(もちろんITも含め)の責任者たるCOO(最高執行責任者)が適任ということになります。COOを販売、営業領域の責任者と位置付けている企業が多いことをもって、異を唱える向きもあるかもしれません。しかし、情報システム部門の最も高い関心の1つが「売り上げに貢献する(ITの整備)」であることを考えた場合、問題がないというよりは、むしろ積極的に賛同すべきだといえるでしょう。

 COOの責任分担により、「IT業界」が拡大させてきたCIOの責任範囲は適正なものへと修正されることになりますが、最高イノベーション責任者としてのCOOと、CIOの責任範囲について簡単に整理すると次のようになります。

 新規システムの企画や要件の定義についてはCOOの責任範囲に含め、オペレーションの検討の中で取り扱われることとなります。つまり、CIOの責任範囲からは明確に外すことになります。CIOは、既存システムの維持、運用――セキュリティ管理なども含め――と、新規システムの開発に注力することになってきます。

 これでは一見、CIOの役割がCIO誕生のころのものに逆戻りしたような感想をもたれるかもしれません。ただし、1980年代と今日ではITのオペレーションにおける重要性が全く異なります。システム環境も汎用機のみだった時代とは大きく変化し、複雑化しています。企業のIT投資やコストの約7割は既存システムの維持費であるのが実情です。これらの点を考えると、CIOはかなりの責任と負荷を抱えているといえるでしょう。

 CIOの任務を果たす上で「情報技術」に対する知見や目利きといったものがより強く求められます。つまりオペレーションの中でも、比較的IT領域のみで完結でき、かつ経営的な効果の創出――多くの場合、コスト削減――が可能な施策を打ち出し、成果を出すことが求められるからです。

 CIOの責任範囲を既存システムの維持・運用に限定することは、金額で換算可能なCIOの達成目標を明確化することになります。これにより、経営面からは従前よりも大きな期待と効果の享受が可能になるのです。

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