第一歩 自社IT基盤の分析から始めようプライベートクラウド化のA to Z

最近のIAサーバは、仮想化環境での利用を前提に、高い性能が与えられている。だが性能だけで仮想化がうまくいくわけではない。その“第1歩”は、自社システムの分析からだ。

» 2010年06月22日 08時00分 公開
[小坂剛生(EMCジャパン),ITmedia]

既にサーバは仮想化を前提に設計されている

 サーバの仮想化技術によって、ユーザーは即座に多数のサーバを展開し、利用できるようになった。IDCなど各調査会社は、近年出荷されたサーバの2割近くは、仮想化を前提として利用されているとのレポートを公開している。

 この事実を裏付ける動きとして、昨年から今年にかけ、1CPUあたりに4つ以上のコアが搭載されたり、1台のサーバで300ギガバイト以上ものメモリが搭載できたりするx86サーバが登場している。既にハードウェアの設計段階から、仮想化環境での利用を前提にサーバが設計されているのである。

 実際に昨今では、このサーバ仮想化技術を基に、クラウドコンピューティング環境を意識したITインフラのあり方が、検討され始めている。クラウドという用語には、外部のクラウドプロバイダーが提供するクラウド環境も含まれるが、その中でもまずは、自社環境の中にクラウドを構築し、「必要な時に」、「必要なだけ」、コンピューティングリソースを作り出すことのできる環境、すなわちプライベートクラウド環境の構築を検討する企業が増えている。

 サーバの仮想化という大きな概念をさらに細分化させ、外部クラウドにはない、自社の環境に最適化したクラウド環境を構築できる点で、プライベートクラウド環境には大きな利点がある。例えば、サーバクラウドのほか、デスクトップ環境のプライベートクラウド化や、クリティカルアプリケーション用のプライベートクラウド化、開発環境のクラウド化など、同じ共通の仮想化基盤を使用して、異なる用途のクラウド環境を構築できるのだ。

伸縮自在に構成できるプライベートクラウド環境。EMCではインターナルとエクスターナルのリソースを包含した環境をプライベートクラウドと表現している

 そして一度クラウド化したものは、用途や重要度、必要とされる気密性要件に応じて、クラウドプロバイダーが提供する外部クラウド環境への移行も検討できるようになる。

 だが、クラウド化へのリスクやコストを懸念して、なかなか先に進めない企業も多いと思う。そこで本稿では、プライベートラウド化のステップや検討すべき点について、考えるべき事項や技術的なポイントを説明していく。

まず“相手を知ること”が重要

 まず、自社にあるサーバをプライベートクラウド環境に移行(仮想化)することを考えた場合、必要な事柄として、情報の収集がある。つまり、自社環境の分析と、現状の把握だ。分析ができていなければ、“相手を知らない”のと同じことになり、プライベートクラウド化への戦略を立てることもままならない。相手を知らなければ、有効な手段の策定も、必要な段取りを組むこともできない。

 わたしもこれまで、ユーザー企業のサーバ分析を多数行ってきたが、自社内にあるサーバの稼働状況や資産についてきちんと把握しているユーザーいる一方、そうでないユーザーも少なくなかった。これは、システム単位で細かく管理者が異なる(システムのサイロ化)場合や、機器の納入元に保守、運用を依頼しているケースで多く見られる(そもそも、こうした状況を改善するために相談されたケースも多い)。

 では、自社の環境をプライベートクラウド化するに当たり、相手を知る、すなわちシステムの分析を行うために必要なのはどのようなことだろうか? 具体的には以下を検討することになる。

  1. システムの資産情報(機器の詳細、使用しているアプリケーション)
  2. システムの構成
  3. 業務上の重要度
  4. システムの稼働率

 このような情報を収集するには、市販または仮想化ソフトウェアベンダーから提供されているツールを用いるとよい。プライベートクラウド化の戦略を立てるに値する、十分なデータを集められるだろう。一般的にこういったツールは、定期的に更新されており、より精度の高いデータを求められる。

CPUの使用率傾向
ディスクの使用率傾向

ワンポイント

ユーザーによっては、これらのツールの動作上の影響(リスク)を懸念して、情報の収集に及び腰になるケースもある。これは、仕方のないことではあるが、もし、このようなクリティカルなシステムを仮想化するのであれば、相手を知らず(分析をせず)に計画を立てる方が、リスクが大きい。

その理由は、一般的にクリティカルなシステムには、移行が難しくなる要因(稼働状況、システムの規模など)が多数含まれているものだからだ(逆に分析の結果、全く問題ないこともある)。判断できない場合は、新規構築時に検討するなど、割り切って考えるべきだ。


 得られた情報からは、仮想環境への移行の可否や集約可能な台数に加え、以下のようなことも分かる。

  1. アンダーサイジング、オーバーサイジングになっているシステムを確認できる
  2. 稼働率毎に分類することで、より投資対効果の高いプライベートクラウド環境を検討できる
  3. 移行後(または移行中)に問題が発生した場合、原因特定のためのデータとして収集情報を活用できる

 プライベートクラウド環境は、システム単位の占有環境ではなく、仮想化技術を活用した共有環境となる。このため、システムの構成に問題がある場合は、ほかのシステムの稼働にも影響を及ぼす可能性がある。例えば、移行対象サーバのメモリ不足により大量のページング(ハードフォルト)が発生すると、ディスクI/Oを多発し、本来消費すべきでないリソースを消費してしまう、といった事態が考えられる。

 このような理由から、現状の構成に問題があるシステムを把握しておくことも重要になる。これらのシステムは移行段階で適切なメモリ量に変更したり、必要なリソース配分を行ったりするとよい。

 次回は、実際の分析結果を交えながら、リスクの分類、そして、重要度に応じたシステムの分類の方法について解説したい。

筆者プロフィール:小坂 剛生

EMCジャパン テクノロジー・ソリューションズ本部 コンサルティング部 コンサルタント。2004年3月、EMCジャパンに入社。主にプライベートクラウド化のためのサーバ仮想化、デスクトップ仮想化の計画策定に従事する。


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