ヒトの代替はきかないのよ……悲しき女子ヘルプデスク物語(2/3 ページ)

» 2010年07月16日 08時00分 公開
[鐙貴絵,ITmedia]

押しに弱いわたし

 翌日の早朝、新入社員たちが来ないうちに、研修室のLANケーブルを少しでも整理しようと、研修室で作業をしていたわたし。するとふいに、「ちょっとお願いがあるんです……」と背後から声をかけられた。

 なんだか、イヤな予感がする。こういう時の予感って、なぜか当たるのよね。とはいえ、逃げ出すわけにも行かない。

わたし はい。何でしょう?

 作り笑いで、顔が引きつっているわたし。相手はちょっと話しにくそうだ。やっぱり、何かある。おそらく3秒もなかったと思うのだが、一種の張り詰めた緊張感が、わたしと相手の間にうず巻く。その時間は、とっても長く感じた(おおげさ)。

 いつの間にか、わたしの上司も研修室にやってきていた。

上司 緊急なんだ。君なら大丈夫だろう。頼んだよ。

 突然、わけも分からぬまま太鼓判を押されるわたし。どうも、なにかを押し付けられたらしいんだが、何を押し付けられたのかが分からない。そんなわたしの反応を知ってか知らずか、上司は話を続けた。

上司 今日の講師が、急病なんだ。代替講師を探す時間はないけれど、新入社員研修は中止できない。そこで君に、講師を代行してほしい。セキュリティ関係の内容だ。よろしく頼むよ。

 わたしに「ちょっとお願いがある」と言った人は、人事部の新入社員研修担当の人だったらしい(さすがにすべての社員を把握しているわけじゃないからなあ)。その人が、今日の教材をわたしに手渡そうとする。素直(?)なわたしは反射的に受け取った。

 あ、しまった……受け取っちゃった……。

 その時のわたしは、誰が見ても「喜んで引き受けた」ようには見えなかったはず。そんなわたしにトドメをさすかのように、これまた、いつの間にかきていた人事部長(この人は面識もあるし、よく知っている)が「まあ、知っていることだから教えるのなんて簡単でしょう」と言いやがった。もとい、おっしゃった。

 それは大きな間違いだ。知っていることと、それを教えることは違う。自分なりに解釈して理解することと、他人に分かるように説明することとは、別のスキルだ。だからこそ、“研修講師”なんて職業がまかり通るのだ。まして新入社員研修で6時間以上も話すとなれば、“付け焼刃”でできるものではない。

 人事部長のそのひと言が「押しの一手」だったらしい。わたしは「はい、分かりました」とも「いいえ、できません」とも、何の返事もしていない。にもかかわらず、上司と部長はさっさと部屋から出て行ってしまった……。

 なんとかこの場を逃れなきゃ!という思いで「えーと……」と担当者に声をかけたわたし。でも担当者はにこやかに「よろしくお願いいたします」と返してきた……。

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