企業価値を向上させるIT基盤構築

“名滝巡り”に例え、IT基盤仮想化へのアプローチを指南HITACHI uVALUE CONVENTION 2010 Report

日立 ソフトウェア事業部の尾花学氏は、日立uVALUEコンベンション 2010の会場において、自身のライフワークである名滝巡りに例えつつ、企業IT仮想化への効果的なアプローチを開陳した。

» 2010年07月23日 15時15分 公開
[石森将文,ITmedia]
日立 情報・通信システム社 ソフトウェア事業部の尾花学氏。趣味である「日本の滝 百選めぐり」については、既に60カ所以上を踏破したという

 日本情報システム・ユーザー会(JUAS)の調査によれば、今や65%もの企業がIT基盤の仮想化に取り組むという時代。同じJUASの調査によると、その内80パーセントの企業が、仮想化の目的を“コスト削減”と回答している。それだけ、経済環境の厳しさが仮想化への取り組みを加速させているのだと言えよう。

 確かにIT基盤を仮想化すれば、ハードウェアの調達費のみならず、サーバの設置スペースや消費電力をカットできる。ひいては運用・保守コストの削減にもつながるだろう。こういったメリットに目を付けた経営層は、「仮想化をし、コスト削減するように」という方針を打ち出すことになる。

 とはいえ、IT基盤を預かる情報システム部門としては、「ちょっと待ってくれ、そう簡単にはいかないよ」という気持ちもあろう。確かに仮想化すれば、プロビジョニングの自動化レベルが高いものとなり、ITリソースの利用率改善や、動的な負荷分散といった恩恵を得られる。いわゆる“クラウド環境”を実現できるとも言える。

 だが同時に、いくつかの不安もある。仮想化すれば、ハードウェアと業務アプリケーションが“1対N”の関係になってしまう。しかもVMwareのVMotionや、Hyper-VのLive Migrationといった機能によって、ハードウェア上をVMが自在に行ったり来たりすることにもなる。複数のアプリが同一のハードウェア上で動くことによる性能干渉も気になる。これまでのように、“どのようなアプリが動いていて、そのミッションクリティカル度はどの程度か。最後にパッチをあてたのはいつか”というような情報を付せん紙に書き込み、それをサーバに張って管理するわけにはいかないのだ。

 日立製作所(以下、日立) 情報・通信システム社 ソフトウェア事業部の尾花学氏は、このような前提を踏まえた上で、聴衆に対し「まずは、仮想化により変わるもの(非機能要求)と変わらないもの(機能要求)に分けて、検討を進めよう」と訴えた。7月22日、23日に渡り開催している「日立 uVALUEコンベンション2010」会場内でのことだ。


 ここで言う機能要求とは、企業組織における“販売/製造/物流/会計/分析/エンドユーザーのコンピューティング環境”などといった業務を支えるITサービスへの要求を指す。これらはIT基盤が仮想化しようとそうでなかろうと、ビジネスを進める上で必須の要素であり、変わることがない。

 他方、非機能要求とは、“昼間にITサービスのリソースをピークで使いつつ、バッチは夜間に終わらせたい”とか“ハードウェア障害が発生してもサービスは止めたくない。計画停止もしたくない”といった、実行環境に強く依存する要求であり、これらはIT基盤を仮想化するか否かによって、状況は大きく変わるだろう。

 尾花氏は「仮想化時に考慮すべきこと」として、「非機能要求を従来並かそれ以上に改善しつつ、仮想化、集約によってできる限りのコストを削減するというアプローチが適当だ」と指摘する。

 仮想化に大きく関わる非機能要求として、尾花氏は大きく3つの分類を挙げる。「信頼性・可用性」と「性能・拡張性」、そして「運用・保守性」である。

 「信頼性・可用性」については、障害が影響する範囲の把握と、迅速な復旧が求められる。「性能・拡張性」の面では、アプリ間の性能干渉を避けるため、負荷パターンを考慮したワークロード管理が求められよう。そして「運用・保守性」においては、ハードウェアとアプリが1対Nの関係になっても、業務視点でITサービスを運用管理できる環境が必要だ。

システム基盤に対する非機能要求の6分類(出典:非機能要求グレード利用ガイド)。仮想化による効果を最大限に享受するには、特に破線で囲んだ3つを、意識すべきだという。

正しいアプローチによってこそ、峻険な山道の踏破も、仮想化もできる

 尾花氏は「日立はミドルウェア製品CosminexusとJP1を通じ、仮想化環境への効率的なアプローチを、ユーザー企業に提供していく」と話す。例えば(仮想化環境の)構成の見える化については、構成情報の入手とサービスにマッピングしての表示をJP1で実現し、アプリの構築/配置と、それらをグループ化しての一括操作については、Cosminexsusが担当できる。こういった環境なら、仮想化されたIT基盤をサイジング(Plan)、構築(Do)、監視(Check)、対応(Action)といったプロセスで回せるため、「いわゆるPDCAサイクルに基づいて仮想化環境を運用できる」(尾花氏)という。

 細かな、だがユーザーにとって重要な点としては、CosminexusのFull GCレス機能に挙げられる。仮想サーバを集約すると、アプリが使うメモリサイズも増大する。一般的な仮想化環境では、定期的にメモリを解放(GC:ガベージコレクション)するが、その際、システムの応答が遅延してしまう。解放しなければならないメモリサイズが大きい(Full GC)ほど、この問題は顕著になる。

 そこでCosminexusでは、セッションオブジェクトを定期的に解放していくことで、Full GCの発生を抑止する仕組みを備えた。業務視点で見れば、サービスの実質的な停止を避けられるというわけだ。


 尾花氏は仮想化への取り組みを、自身のライフワークに近い趣味である「日本の滝 百選めぐり」に例えて話す。「目的地の滝にたどり着くには、不安定なつり橋を渡り、険しい渓谷を越え、岩壁の間をくぐらなければならない。その間にもクマや崩落などの危険を避ける必要がある。でも、道程をしっかりと計画し、装備を整えて臨めば、安全で確実な道を進める」(尾花氏)という。

 仮想化のメリットとデメリットを把握し、要所のポイントを抑えれば、確実で安全な仮想化環境の構築と、それによる効果を享受できる。「結果として、経営/業務部門/ITインフラ部門(情報システム部門)の“三位一体”が実現する」と尾花氏は指摘する。

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