MBA取得、そして工場での草むしりの日々オルタナティブな生き方 坂本史郎さん(青春編)(2/3 ページ)

» 2010年07月28日 11時30分 公開
[聞き手:谷川耕一、鈴木麻紀,ITmedia]

良く学んだ留学時代

 デュポン本社から人が来ると通訳をする機会が多く、実践的なビジネス英語の世界に数多く触れたり、日本と米国のビジネスの違いをいやというほど目の当たりにしたりしました。しかも、外国人のプレゼンテーションは実に格好がいい。なぜこんなにも違いが出るのかと考えるうちに、だんだんアメリカでのビジネスに興味を持つようになりました。

 そんな折り、東レに海外留学の制度ができました。これは行きたいと思い、社内試験を受け役員面接も乗り越え、第一期生として留学できることになりました。

 ところが、東レで初めての試みだったこともあり、大学の情報などが会社側で準備されていませんでした。仕方がないので、自力で米国の大学院入学用の受験勉強と大学調べを開始しました。候補の大学を4校くらい選び、それぞれに見学させてほしいと連絡。そして1週間の休みをとって渡米し、候補の大学を訪問したのです。

 その結果、バージニア大学のMBAコースに行くことを決めました。選んだ理由は、授業がすべてケーススタディーで進められていたところ。MBAとは、経常利益と純利益の違いとか、経営に必要な多くの事柄を講義で学ぶところと思っていたのですが、バージニア大学ではまったく違いました。ケーススタディーの課題が1日3つ出て、それをまず自分で、次にグループで、最後はクラスで考察し、考えをぶつけ合うのです。毎日かなり勉強しないと、追いつけません。

 実はバージニア大学のMBAコースは米国でもっとも厳しく、“ブートキャンプ”と呼ばれるほどでした。十分に訓練されるので、卒業すれば企業で即戦力になると言われているとか。

 ここでは、日本の大学院では考えられないような授業も行います。わたしの在学中は、ある企業の製品をアジアに拡販するためのコンサルティングを行うというテーマが与えられ、実際にアジアまで出張して調査し、結果をレポートする、という演習がありました。費用はその企業が負担します。

 調査したところ、この製品はライバル企業がアジアですでに競合製品を強く展開していました。そこで、新たに進出するのは難しいが、それでも進出するのなら、進出している日本企業とジョイントベンチャーを設立する方法が良いというレポートを作成しました。この企業、数年後に実際に日本企業と組み、アジア市場に参入したのです。わたしたちの調査結果を、単なる学生のレポートではなくきちんと意味あるものだと企業側が受け止めて活用してくれたのですね。大学と企業がしっかりと組む体制ができあがっている証明であり、米国MBAのすごいところでしょう。

良く遊び、旅にも出た

 MBAのクラスは1学年が240名くらいで、なんとか全員の顔を憶えられるくらいの規模でした。毎日勉強が忙しかったのですが、週末は毎週のようにパーティーが開催されましたので、バンドを組んでパーティーで演奏するという学生らしい生活をエンジョイすることも忘れませんでした。

 留学期間でわたしの人生観に影響を与えたのが、1年から2年に進学する間の3カ月の長い夏休みです。東レから何らかの業務指示が出るかと思っていたのですが、留学一期生で人事部もまだ想定外だったのか、夏休みは米国文化を吸収してきなさいというだけでした。そこでジープグランドチェロキーというクルマを購入し、キャンプやモーテルに泊まりながら、一緒に渡米していた妻と全米49州を巡る旅に出たのです。

 49州を周って、米国は本当に大きく雄大なところだと実感しました。日本には米国の都市の様子は伝わりますが、それ以外の地域のことは詳しくは分かりません。でも実際には、砂漠もあれば、野生動物が悠然と歩いている素晴らしい自然も広がっている。その3カ月は、まさに人事の指示通りの米国文化を吸収する貴重な体験となりました。

坂本史郎さん 米国49州を回ったときに使った白地図と、50ドルの国立公園年間パス

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