商用車向けテレマティクスサービス市場は自動車業界のみならず、ITベンダーや通信業界、サービスプロバイダーも巻き込み、2020年に向けて巨大市場に成長すべく動き出した。2025年に年1000億円市場に到達するとみられる同市場を考察する。
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2010年の世界自動車市場は、アジアなど新興国の低価格車が多くを占めるようになってきた。低価格車ゆえに、最新技術をふんだんに使ったIT/ITS機能は搭載されにくくなってきている。だがこの状況下においても、商用車向けテレマティクスサービス市場には注目すべきビジネスチャンスが存在する。
商用車向けテレマティクスが期待されているのは、日本および世界各国の国家目標として、(1)二酸化炭素(CO2)排出量削減、(2)エネルギーマネジメント実現――の2点が掲げられているからだ。今や商用車向けテレマティクスサービス市場は自動車業界のみならず、ITベンダーや通信業界、サービスプロバイダーも巻き込み、2020年に向けて巨大市場に成長すべく動き出した。加えてリコール対策としてイベントレコーダーの標準搭載が進めば、商用車向けテレマティクス端末(サーバなどを除く)の国内市場規模は、2025年に年1000億円に到達すると予測できる。
テレマティクス(Telematics)とは、「テレコミュニケーション(Telecommunication=通信)」と「インフォマティクス(Informatics=情報工学)」から作られた造語である。携帯電話などの移動体通信システムを利用して、自動車や交通分野(電車、歩行者など)向けに提供される情報サービスを指す。地図やGPS、インターネットなどのIT技術と自動車の安全走行の技術を融合したシステムが用いられる。
日本におけるテレマティクスは、カーナビゲーションシステム(カーナビ)の付加価値機能として、乗用車メーカー独自のサービスが1998年に始まった。ナビによるルートガイダンス、渋滞情報、緊急通報、盗難防止、エンターテインメント系のコンテンツなどをサーバからカーナビに配信し、多様なアプリを提供してきた。現在の流行言葉でいえば「車載クラウドコンピューティング」である。
下記の表は、国内乗用車メーカー4社のテレマティクスサービス事業の歴史をまとめたものだ。乗用車メーカーは1998年に同サービスの展開を始め、2002年には現在のトヨタ自動車「G-BOOK」、日産自動車「カーウィングス」、本田技研工業「インターナビプレミアムクラブ」といった、ハイレベルな第二世代サービスに進化した。
テレマティクスサービスを実現した例は、乗用車メーカー以外にもある。パイオニアは2002年に通信カーナビ「エアナビ」を発売し、同サービスを実施した。エアナビは「通信モジュールを内蔵し、サーバから地図を全配信する」というテレマティクスサービスを伴ったカーナビである。今考えると、車載クラウドコンピューティングそのものだった。
しかし、エアナビは当初期待されたような爆発的な需要を喚起しなかった。人気が出なかった最大の理由は、通信カーナビの月額使用料金が2000円程度掛かったからである。
一般的な中流日本人は「えいや!」という気合もろともカーナビを購入する場合が多い。分割払いの場合でもだ。10万円以上の買い物をする場合は、ここ一番の気合が大切なのである。だが通信カーナビの場合、購入後も毎月使用料金を支払い続けなければならない。この点が、現在の携帯電話の料金体系に慣れていなかった当時のユーザーには受け入れられにくかった。
当初、乗用車メーカーはテレマティクスサービスを収益源と見立て、有料サービスとしてのビジネスモデル構築を試みた。だがこれは乗用車メーカーなどにとっては難しかったようだ。現在は「乗用車の価値向上」「乗用車メーカーのCRM構築」を目標とした無料サービスの方向に向かっている。コストは自動車の本体価格に組み込むという考え方だ。
その背景にあるのは、国内の新車販売台数の減少傾向だ。現在の「車を作り、売る」というビジネスモデルは年々縮小している。そこで各社は「車を作り、売る」ことをビジネスの出発点と考え、販売後にさまざまなトータルライフサービス(タイヤなどのアフターグッズ販売や車検告知、緊急通報など)を実施し、収益源を確保するという戦略を立てている。テレマティクスサービスは、この戦略を支援し、ドライバーと外部サーバとの間を常につなぐ役割を果たす。
現在の乗用車向けテレマティクスサービスの普及エリアは、日欧米などの先進国がほとんどである。一方で、モータリゼーションの進展が期待されるアジア、南米では、自動車の価格にテレマティクスサービスを組み込むことは難しい。低価格な小型車が市場の中心だからだ。
しかし、この状況下においても、商用車向けテレマティクスサービス市場には数少ないビジネスチャンスが存在するとみられている。
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