クラウドビジネスの進展と事業者の投資リスクについてオルタナティブ・ブロガーの視点

クラウドは、システムを「保有」するリスクからユーザーを解放しますが、そのリスクはサービス提供者に転嫁されることになります。事業者にとってのクラウドのリスクをオルタナティブ・ブロガーの林雅之氏が解説します。

» 2010年09月01日 15時37分 公開
[林雅之,ITmedia]

(このコンテンツはオルタナティブ・ブログ「『ビジネス2.0』の視点」からの転載です。エントリーはこちら。)

 クラウドコンピューティングが普及すると、企業は情報システムの「保有」からサービスを「利用」するという形態にシフトし、好きなときに好きな分だけコンピュータリソースを使うことができます。つまり、「保有」することのリスクがなくなり、事業への選択と集中が可能になります。

 一方、クラウドサービスを提供している事業者は、規模の経済(スケールメリット)において優位に立つために、データセンターなど関連事業への投資が必要になります。既に多くの事業者がクラウド市場の成長を予測し、首都圏や地方、そして、海外でのデータセンター建設を明らかにしています。かつてのマンション不況のように、数年後は過剰投資で事業が成り立たなくなるリスクも十分に考えられます。つまり、クラウドを利用するユーザーの保有リスクはなくなりますが、一方で事業者側の保有リスクが高まるという構造になることが予想されます。数年後、「クラウドバブル崩壊」という見出しが出ても不思議ではありません。

 IT(クラウド関連)技術はものすごいスピードで進化しており、数年後を見据えたデータセンターへの投資は、市場優位に立つ可能性がある一方で、リスクとも向かい合う必要があります。また、データセンターだけでなく、IaaS、PaaS、そして、SaaSのレイヤにおいて覇権争いが激しくなり、リスクを見極めながら市場で優位に立つための投資をしていく必要があります。もちろん、投資はなるべく回避し、別のクラウド事業者のIaaSやPaaSのクラウド基盤を利用し、ユーザー側にサービスの部分を提供するという選択もあるでしょう。またコンテナ型のデータセンターでは、拡張が容易になるモジュール形式にすることで大型投資のリスクを抑えるという考え方もあるでしょう。

 ユーザーが恩恵を受ける一方で、事業者にはビジネスを展開していく上で非常に難しいかじ取りが求められています。クラウドビジネスの市場が成長すれば、IT業界全体が右肩上がりになるという保証はありません。

 今回あえてネガティブな意見を述べさせていただきましたが、クラウドコンピューティングというキーワードが飛び交っている中、冷静に事業判断をしていく視点も求められているような気がしています。

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