中堅・中小企業を変えるクラウド活用

【第1回】既存業務システムの外出しだけでは駄目だ中堅・中小企業のSaaS/クラウド活用(2/3 ページ)

» 2010年09月14日 08時00分 公開
[岩上由高(ノークリサーチ),ITmedia]

コスト削減のみを目的とした活用は避けるべき

 こうした流れによるSaaSやクラウドの活用は「コスト削減」を目的としたものといえる。人手でカバーしていた情報システムの管理、運用を外部に任せることにより、人的コストを削減するわけだ。実際、ユーザー企業が期待する効果の多くはコスト削減だ。上述した管理、運用にかかる人的コストに加えて、ハードウェアの調達コスト、ソフトウェアのライセンスコストなどを削減できることに期待する意見が多い。

 こうしたコスト削減のみを目的としたSaaSやクラウド活用の検討にはある特徴的な傾向が見られる。それは「既存の業務システムをそのまま外出しする」という発想だ。ここに危険なワナが潜んでいる。

 中堅・中小企業が情報システムの管理および運用コスト増大に悩む要因の多くは個別の要件に対応するための独自カスタマイズやシステム連携にある。一方、SaaSやクラウドが提供するのは上述したようなIT資産を所有することに起因するコストの解消だ。つまり、SaaSやクラウドを活用しても、独自要件に対応させた代償として発生するコストまで削減できるわけではない。実際、この点を誤解している中堅・中小のユーザー企業が少なくない。

 そのため、「バージョンアップのたびにカスタマイズ部分でコストがかかっているシステムをSaaSに移せば、大幅なコスト削減が見込める」という期待を抱くものの、いざ検討をしてみると「独自カスタマイズした機能の再現や、社内システムとの連携が難しい」といった課題が見つかる。既存の業務システムをそのまま外出しすることでコスト削減を実現しようとしても、それはなかなか難しいのが実情なのだ。

 ここで少し視点を変えてみよう。厳しい経済環境下でありながらも、業績を改善させている中堅・中小企業は存在する。そうしたユーザー企業はどのようなIT活用を重視しているのだろうか。以下のグラフは年商500億円未満の中堅・中小企業に対し「業績改善に役立つIT活用」を尋ねた結果のうち、主だったIT活用項目をピックアップしたものである。結果は2010年2月〜5月と比較した2010年6月以降の経常利益増減予測に応じてグループ分けしてある。経常利益の増減が10%以上、10%未満、変化なしに応じて5つのグループに分かれているのが確認できるだろう。このグラフを見れば、業績の良いユーザー企業とそうでないユーザー企業で、役立つと考えるIT活用項目にどのような差があるかを把握できる。

業務改善に役立つIT活用 業務改善に役立つIT活用

 「顧客管理システム」「グループウェア」「無料/低額の情報共有サービス」については、経常利益の増減と重視意向との間にそれほど目立った相関は見られない。一方、「ビジネスインテリジェンス」「生産管理システム」「モバイル端末活用」は経常利益の増加を見込むユーザー企業ほど「役立つIT活用」と考える比率が高い。これら3つはいずれも相応のシステムインテグレーションが必要となる業務システムといえる。つまり、比較的業績の良いユーザー企業(ITを提供する側の視点からすれば、投資余力を持った顧客企業)はSaaSやクラウドの利用が容易な「顧客管理システム」「グループウェア」「無料、低額の情報共有サービス」ではなく、システムインテグレーションがある程度必要となる「ビジネスインテリジェンス」「生産管理システム」「モバイル端末活用」に関心を持っていることになる。

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