ここまでの流れを踏まえると、
1. 中堅・中小企業にはSaaSやクラウド活用の潜在ニーズが存在する
2. 既存業務システムを単に外出ししてもコスト削減は実現できない
3. 業績の良いユーザー企業はシステムインテグレーションを伴うIT活用に注目している
といった状況であることが分かる。これだけを見ると、「SaaSやクラウドを活用せず、従来通りに自社内で情報システムを管理、運用した方が良いのでないか」と思われるかもしれない。確かに、あらかじめ用意されたサービスを利用するという観点での「SaaS」だけに手段を絞ってしまうと、そうした結論になるかもしれない。だが、クラウドを構成する要素はSaaSだけではない。PaaSやIaaSの存在も忘れてはならない。
IaaS:ハードウェアやネットワークといったインフラを提供する
PaaS:開発/運用のプラットフォーム(言語ややフレームワークなど)を提供する
SaaS:あらかじめ決まった形の業務遂行手段(アプリケーションなど)を提供する
業績改善効果を期待できる業務システムをSaaSやクラウド環境で管理、運用できれば理想的だ。しかし、それらのIT活用にはデータ連携、セキュリティ対策、システム連携、独自業務ロジックなどといった形でハードウェアからネットワーク、ミドルウェアに至るさまざまな階層でのシステムインテグレーションが必要となってくる。
それらをクラウド環境上で実現するにはPaaSやIaaSにまで視点を広げたクラウド活用が必要となってくる。これはSaaSの守備範囲がソフトウェアであって、ミドルウェアやハードウェア、ネットワークに起因する課題まで負わすことが難しいことからも明らかだ。「既存業務システムをそのままを外出しする」という発想がうまくいかないのも、元来SaaS/PaaS/IaaSで総合的に検討すべきところを無理にSaaSのみでカバーしようとしたことが大きな要因の1つといえるだろう。
こうした前提を踏まえ、連載第2回ではIaaS、第3回ではPaaSを取り上げ、SaaSを効果的に活用するために必要なミドルウェアやハードウェア、ネットワークへの視点拡張について述べていく。
ノークリサーチのシニアアナリスト。早稲田大学理工学部大学院数理科学専攻卒。ジャストシステム、ソニー・システム・デザイン、フィードパスなどを経て現職を務める。豊富な知識と技術的な実績を生かし、各種リサーチ、執筆、コンサルティング業務に従事。著書は「クラウド大全」など。
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