クラウド、スマートグリッド、地デジが起こすビッグウェーブ伴大作の木漏れ日(1/2 ページ)

21世紀に入り約10年。僕たちの生活を支えているインフラは、いま大きな変化を迎えているようだ。そのキーワードは「クラウド、スマートグリッド、地デジ」である。

» 2010年10月20日 08時00分 公開
[伴大作,ITmedia]

 今年も9月いっぱいで上半期が終わり、後半戦に突入した。経済の先行きは、1つは中国を始めとして、石油産出国の経済不振等で不透明感が一層顕著となり、国内に目を転ずると「エコ補助金」が次々と打ち切られ、短期的には落ち込むことが予想されている。9月29日に発表された日銀短観も、そのような巷の雰囲気を如実に表している。

 僕は一昨年から「クラウドコンピューティング」について何度かこのコラムに書いてきたが、同時に様々なデバイスに関しても記してきた。両者の間には、一見何の関係もないように思われがちだが、実際には密接な関係にある。一見全く別の事象としてとらえられている製品やサービスが、実は非常に密接な関係にあるというのは、これだけに限らない。それ以外にもさまざまな分野に広がっており、やがてわれわれの社会生活全体を根底から覆す可能性を秘めている。僕はこれを「ビッグウエーブ」と名付ける。

アップルの秀逸なビジネスモデル

 典型的な例として「スマートフォン」とクラウドについて少し解説する。いまやスマートフォンを代表するのはアップルのiPhoneだ。さまざまなデータが提供されているが、おおむね市場全体の半分以上から、8割というシェアを持っている。iPhoneは携帯電話であり、インターネットデバイスだ。同時にそれは音楽プレーヤーであり、ビデオゲーム機でもある。そのほか数多くのアプリケーション(中でも“地図”は有名だが)プラットフォームとしての性格も併せ持っている。つまり、利用する人にとって異なる顔を持っている。

 当たり前の話だが、それらのコンテンツは、元々iPhoneに内蔵されているわけではない。アップルストアというリアルな路面店で、パッケージソフトが売られているわけでもない。ネット上の「iTunes Store」から、(iPhoneから直接ダウンロードすることもできるが)PC経由でダウンロードするのが普通だ。つまり、iPhoneは単体で動くシステムではなく、PCというゲートウェイとインターネット、iTunes Storeというサービスを行っているサーバ群によって構成されているシステムなのだ。アップルは製品でもうけ、さらにコンテンツやアプリケーションの販売で売った製品へのサポートと通信料の割戻しなどで、“3回美味しいビジネス”を展開している。

 一方「iPad」も出荷開始からおよそ半年がたった。最初は大型iPhoneなどと揶揄されたが、時間の経過とともに両者の住み分けも進んできた。

 前者はこれまでどおり、スマートフォンとして、既存の携帯電話市場を駆逐する勢いを保っているが、後者に関しては3G電話網でデータをダウンロードするにはやや非力で、Wi-Fiのお世話になっている。おかげで、一時は完全に息絶えたと思われた「fon」も再び注目を浴びているようだ。

 利用法も最初のうちは個人の利用が中心だったが、徐々にビジネス現場での利用が進んでいる。僕の見通しでは、数多くの企業でマーケティングや営業の現場でポートフォリオの説明に使用されたり、商品在庫の確認、倉庫業務の入出庫、配達員が用いるハンディターミナルなどとして使われたりすることが増加するだろう。つまり、本来のタブレット型PCとしての利用に焦点が移っている(これを書いている最中にも、ダイムラーが米国でiPadを全面的に採用するというニュースが入った)。

 当然、ほかのハンドセットベンダーやPCベンダーも、アップルの独走を指をくわえて眺めているだけではない。Googleが提供する「Android」を組み込んだスマートフォンや、各用途に特化した安価なタブレット型PCなどが次々に登場している。しかし今のところ、スマートフォン市場およびタブレット型PCに市場におけるアップルの地位は揺るがないように見える。

ほかのベンダーのビジネスモデルとの違い

 一体、アップルとほかのベンダーとでは、何が違い、どの部分でアップルより優れていて、あるいは劣っているのだろうか? アップル製品はデザインや使い勝手が優れていると思うが、それ以外に他社と最も違うのは、トータルなビジネスシステムである。

 PCが発表され、一般への普及が始まって、およそ30年以上になる(皮肉なことに、その普及をうながしたのは、CPUにインテルを、そしてOSにマイクロソフト製品を採用したIBMだ)。

 それまで“コンピュータといえばメインフレームが主役”という時代は一変してしまい、だれもがコンピューティングパワーを享受できるようになった。しかしそれでも、PCは一般の庶民にとって「気難しい箱」に過ぎなかった。PCを購入した人々が、ワープロなどのアプリケーションを購入しプリンタなどの周辺機器を追加して、やっとタイプライターが完成するだけで、表計算をしたければさらにLotus 1-2-3を購入しなければならなかった。

 その上、パソコンの性能が時代とともに向上すると、ユーザーは商業主義の魔法に操られ、まだ習熟すらしていないマシンを捨てて、新しいマシンへ買い換える呪文をかけられた。その結果、データの移行などで様々な苦労を重ねてきた。

 それが、インターネットが普及し、新しく誕生したさまざまなサービスにより、PCを買ってすぐ、Webブラウザを開くだけでアプリケーションを利用できる状況に一変したのである。

 それでもユーザーにとって「茨の道」は続いた。インターネットには無料のサービスが転がっているが、玉石混交であり、詐欺や害毒もあふれている。いついかなる時も警戒を怠れない、無法地帯である。アップルはそのような中で、有償ではあるが、買う側もコンテンツを提供する側も一応納得できるビジネスモデルを提供した。賞賛に値する。

 アップルのさらなる貢献は、今まであまりコンピュータに縁の無かった人達に、ICTの魅力を伝えたという点である。それに比べると、ほかのベンダーはひたすら安くすることばかりに熱中して、ユーザー層を広げる努力を怠ってきたように見える。

もう1つの注目点

 コンテンツを提供するシステムに目を転じると(アップルは詳細を公表していないが)、iTunes Storeのシステムは、Google検索システム、AmazonのECサイト、YouTubeの無料動画サイトと並ぶ、巨大なシステムの1つだ。ウワサ話の域を超えないが、Mac OS X(BSD UNIX)で構築されたクラウドシステムであり、世界中にセンターが存在し、ノード数は数千を超えるという。

 まあ、1日当たりのダウンロード数が世界で数百万件を越え、その多くで課金が発生するデータ処理を行っているのだから当然だ。しかも、コンテンツを提供する国により価格も違うのだから、なおさらである。

 とはいえアップルだけが、大規模なサーバ処理をしているわけではない。Google、Amazonはもちろん、日本の楽天やヤフーも、クラウドシステムで構築されている。ISPの最大手ニフティは、AmazonのEC2と同様のサービスを開始した。これらの企業が、クラウドテクノロジーでリーダーシップを発揮しているのは至極当然だ。クライアントマシンの数量増加、サービス内容の高度化にともない、データセンター側も、大きな変化を遂げているのだ。

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