リーダーを作る方法は2つあり、1つは自らリーダーの座を去ること。それは最後の手段――ガートナーのコンサルティング部門を率いるマネージングディレクターの中村祐二氏はこのように語る。リーダーを生むもう1つの方法とはどのようなものか。
2008年の金融危機を契機にした世界的な景気後退の波は、あらゆる業種の企業に深刻なダメージを与えた。その中でも厳しい局面に晒されている業界の1つがコンサルティングの世界だろう。だが、ガートナー ジャパンのコンサルティング部門を指揮するマネージングディレクターの中村祐二氏は、「よそに合わせていたら下がるだけ」と語る。
コンサルティング業界が低迷する原因の1つが、顧客企業における収益性の低下である。世界同時不況によって多くの企業が収益力を落とし、支出の抑制に走るようになった。不況が底を打ったという識者の意見も聞かれるが、積極的な投資に今なお慎重な企業が少なくない。コンサルタントが活躍する場も少ない状況が続く。
ガートナーは、ITの世界ではグローバルなリサーチ企業と知られるが、現在はもう1つの顔であるコンサルティングビジネスの拡大にも注力している。中村氏は日本でこのビジネスを担う立場にあり、2005年に就任してから事業規模を3倍に拡大させたという。企業として成長と利益の両方を手にするには、リーダーが生まれ続ける組織でなければならないというのが同氏の見解だ。
コンサルティングの価値はコンサルタントの持つ資質や経験、スキル――つまり「人」だとも言われる。顧客にとっては、コンサルタントのアウトプット(成果)が商品であり、コンサルタントの力量次第で商品が当たりにもはずれにもなりかねない。「そんな買い物は誰もしたくない。企業としてバックアップできる形でないといけない」と中村氏は話す。
コンサルティング業界が低迷する背景には、顧客企業の業績悪化に加え、コンサルティングサービス提供者としての中立性が失われつつあること、また、コンサルタントの生産性が低いことなどが挙げられる。
前者は例えば、コンサルティング企業が収益性を追求するあまりに、特定のベンダーと関係を深めるというものだ。アウトソーシングの提供など、コンサルティング以外の部分にも関わることで収益機会を増やすようになる。多数のプロジェクトを手掛けるには、ベンダーと歩調を合わせる方が効率的である側面もある。後者は、コンサルティングの仕事が基本的に人の手を動かすことで成り立つものであり、1人のコンサルタントが高められる生産性には限界があるという状況からくる。
コンサルタントの本音としては、誰もこのような状況を望んでいないと中村氏は語る。中立的な立場から顧客企業に最適なソリューションを提供するという本来の役割を取り戻すこと、そして、生産性の高いスタイルに変えていくことを望んでいる。コンサルティングビジネスの拡大と個々のコンサルタントが抱く理想を現場組織として実現していくことが、過去5年間における中村氏の取り組みであった。
組織のリーダーが果たすべき役割について、中村氏は次のように語る。
「リーダーの仕事には、エラーが起きないようにガバナンス(統治)をするという意味も含まれるが、それだけでは組織を維持できない。リーダーを作る方法は2つあって、ビジネスを拡大させてポジションを増やすか、自らが退くしかない。自らが退くのは拡大できなかった結果であり、最初からその選択肢はない。リーダーの仕事は創造性を発揮してビジネスを作り、新しいビジネスのリーダーを作ること」
この考え方は、中村氏がこれまで所属した組織でビジネスパートナーの拡大を仕事としてきた経験に基づくものであるという。「新しいパートナーシップを作ってビジネスを広げられなければ、この仕事から退くしかない。それを基本の心構えとしてきた」(中村氏)という。
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