リーダーシップと実現力 今の日本にあるべきリーダー像

「リーダーを育むリーダーであれ」――ガートナー・中村マネージングディレクターリーダーシップと実現力(2/2 ページ)

» 2011年01月13日 08時00分 公開
[國谷武史,ITmedia]
前のページへ 1|2       

誰もがリーダーになる組織

 ガートナーのコンサルティングは戦略の部分に集中し、製品やサービスの導入には関与しないスタイルをとる。その部分にも携わると、コンサルティングの中立性が失われると判断しているためだ。またプロジェクトで培った知見やノウハウ、成果は、具体的な内容としてコンサルタントが共有し合う。コンサルタントによって、顧客企業に提供する成果に違いが生じないようにするためである。

 一般的なコンサルタントの業務では、調査や現状分析の業務が大きな割合を占めるが、同社ではリサーチ部門の成果を活用する。この部分はコンサルタントの勉強期間であり、顧客にとっては価値にはならないという。必要なデータが既にあり、メンバーをアサインして意見やノウハウを突き合わせ、一気にプロジェクトをスタートさせる。

 コンサルティング部門には、他のコンサルティング企業で経験を積んだ30人ほどが在籍する。リーダー経験のある30代のメンバーが中心だ。組織内には形式上のポジションが存在するが、プロジェクトの内容や状況に応じて適切なスキルや経験を持ったコンサルタントがリーダーを担う。「もちろん全体をまとめるべきリーダーはいるが、例えばシニアマネジャー経験者が必ず全体のリーダーになるべきだというような概念は全くない」(中村氏)。コンサルタントの中には、自身の経験や考え方に基づいたスタイルにこだわり、仕事を抱え込むようなタイプもある。だがそのような人材は採用していない。

 リーダーに求められる能力は、ビジネスのさまざまな局面によって変わる。得意分野が異なるリーダー経験者をフラットに配置するという組織とした上で、同氏はコミュニケーションや助け合いの精神の重要性もメンバーのコンサルタントに説いているという。「他人の意見に素直に耳を傾けられる人間でなければ、こういう組織は成り立たない。本来は皆が望んでいることであり、メンバーも納得している」と話す。

既成概念を壊していく

 コンサルティングは、機械やコンピューターで人間の仕事を代替できるものではなく、コンサルタント自身の生産性や組織としての収益性を高めていくには、人の力に頼らざるを得ないだろう。「コンサルティングビジネスの成功」という命題には、「人材」「セールスチャンネル」「知的資産」の3つを成立させられるかどうかが鍵になると中村氏は話す。

 ガートナーには、知的資産としてのリサーチ部門やセールスチャンネルがあり、中村氏はこれに人材を束ねることで同社コンサルティング部門のビジネスを順調に拡大させてきた。だが2009年は金融危機の影響を受けて、コンサルタントの採用を停止するなど慎重な組織運営を迫られ、実績が1割ほど後退したという。

 リーダー輩出型の組織でビジネスの成長を追求しつつも、企業としては確実に利益を生み出すことも同時に求められる。成長と利益のどちらか一方をとるビジネスはなく、積極さと慎重さのバランスの中で、現場のビジネスを手掛けていかなければならない難しさがあるようだ。

 2011年の目標は、自身のミッションであるガートナーのコンサルティングビジネスを引き続き拡大することに尽きるという。「IT業界を今の構造のままで伸ばすことは考えていない。IT業界は工業化が進まず、ユーザーはブラックボックス状態のままの製品やサービスを購入している状況だ。それを打ち壊すのが当社の使命であり、本当の姿が分かるように顧客を支援することが価値になる」


 中村氏は、経営側が提示するミッションが中村氏個人の目標とも一致するからこそ、今のビジネスに取り組めるとも話す。逆に一致しなければ、個人としては辛い思いをすることもあるだろう。経営側の考えと個人の考えが衝突するシーンがどのような企業にもある。

 中村氏のポジションを担うリーダーの育成について、「ずっと考えているし、ビジネスの規模が広がれば、私だけでメンバーをリードできない。やはりビジネスを広げてリーダーを作れる組織でないといけない」(中村氏)といい、現場を預かる立場でも、時には経営側に寄ってその考えをメンバーに伝えていくことがある。同氏もまた、新しいリーダーのポジションを担わなければならないためだ。

 「なぜこうするのかと言えば、いずれ私自身がそちら(経営側)に立たなければいけない時が来るかもしれないからだ」と中村氏。リーダーの仕事は、新しいビジネスとリーダーを生む組織にすることであり、同時に自らの新しいポジションを作り出すことでもあるようだ。

企業向け情報を集約した「ITmedia エンタープライズ」も併せてチェック

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ