中小企業の活力を高めるIT活用の潮流 豊富な事例を紹介

業務改善からワークスタイル変革へ クラウドで「完全在宅勤務」を目指す中小企業の活力を高めるクラウド活用の潮流(2/3 ページ)

» 2011年01月31日 19時55分 公開
[伏見学,ITmedia]

案件進ちょく管理に関するリスクが激減

 選定の理由について、「自社で同等のシステムをスクラッチ開発することを考えれば、数百万円規模のコストメリットがあったことが大きい」と赤堀氏は話す。加えて、社外で仕事をする機会が多いため、場所にとらわれずに社内システムにアクセスしたいという思いもあった。その点でセールスフォースのクラウドサービスは、iPhoneなどのスマートフォンからも利用できる。加えて、昨年リリースされた企業内コラボレーションツール「Salesforce Chatter」がその動きをさらに助長した。

「例えば、社外で案件管理シートをチェックし、担当社員に質問などがあればChatterで簡単にコミュニケーションがとれる。同じ空間で社員が働くのも大切だが、場所を問わずに仕事ができる環境も重視している。クラウドサービスはそれを実現できる」(赤堀氏)

 Force.comの導入効果について、当初は案件の進ちょく状況を数字として記録するのを目的にしていたが、アプリケーションの精度向上によって、例えば、プロジェクトの進行が遅延したり財務的に問題が生じたりすれば自動的にアラートが出てくるなど、システムが業務プロセスの改善を提案するようになった。現在では、社員全員がプロジェクトの進ちょく状況を把握できるようになり、案件の停滞や請求漏れなどキャッシュフローに関するリスクは限りなくゼロに近づいたという。さらには、会社の経営状況をダッシュボードで全社員に公開し、リアルタイムに共有している

 ただし、これでシステム改革が終わったわけではない。現在は財務にかかわる数字など「定量的」な情報の管理に過ぎないが、今後は社員のスキルやノウハウを蓄積できるナレッジマネジメントシステムを構築することで「定性的」な情報の蓄積はもちろん、蓄積したナレッジを新人教育に生かす仕組みをクラウドで実現したいと、赤堀氏は意気込む。

「例えば、腕の良いディレクターとそうでないディレクターでは、仕事のスケジュールの組み方に圧倒的な差が出る。クラウド上でノウハウを共有できる仕組みを作り、業務の精度向上を図りたい」(赤堀氏)

 同社がシステム導入に成功した理由は何か。赤堀氏は「事前に業務上のさまざまな課題をしっかり把握しており、それに対してどのようにITを活用すれば改善されるかを認識していたからだ」と述べる。

 「何が課題か分からないが、何とかしたい」と願う中小企業は多いものの、やみくもにITを活用して失敗する企業が後を絶たない。最近では「クラウド」というキーワードが独り歩きし、クラウドを導入すれば問題が解決すると信じ込んでいる経営者も少なくない。赤堀氏の言葉を借りれば、システム導入の前段階に当たる業務課題の洗い出しが重要であり、それをおろそかにしては、たとえ優れたITサービスを活用しても成果が出ないのだ。

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